Vamp
ヴぁんぷ!

 それぞれがそれぞれに背景を背負って突っ走るキャラクターなり、そんなキャラクターたちが集まった集団の、行動や思考を代わる代わる描いて行きながらも、真ん中にはひとつ通ったストーリーがあって最後には、そのストーリーへとすべてを収斂させて大団円へとこぎ着ける手際の良さは、デビュー作の「バッカーノ!」(電撃文庫)の頃から存分に発揮されていた。

 いちばん新しい「デュラララ!!」(電撃文庫、630円)に至って、池袋を舞台に繰り広げられる、チーマーどうしのど付き合いや生首の美少女しか愛せない男の暴走や、爆音響かせた首無しライダーの首を求める疾走や企業の謀略といったレベルも形も多種多様、というより支離滅裂なエピソードを絡ませより合わせながら、池袋へとやって来た見た目フツーの少年のセーチョー物語へとまとめあげその手際に、成田良悟の才能もここに極まった観があった。

 ところがどうだ。「デュラララ!!」からまるで間をおかずに出た「ヴぁんぷ!」(電撃文庫、610円)では、さらに支離滅裂で無茶苦茶に種々雑多なキャラクターなり集団が、手前勝手な思い込みでてんでばらばらに突っ走るエピソードを、次々に繰り出しながらもそれらを微妙に重ね合わせ、より合わせてクライマックスへと導く手法が洗練を超えて大爆発。どうせ最後にはきっちりまとめて来るんだろう、とは思わせられながらもどこへ連れて行かれるのか分からない、霧の中のジェットコースターか東京ドームくらいの広さをもったお化け屋敷に放り込まれた、底の知れないスリルと興奮を味わえる。

 ドイツ領グローワース島にあるバルシュタイン城にある礼拝堂にやって来たのはミヒャエルとヒルダというなの兄妹。お祈りに来た、のではなくなぜか置かれた棺に向かって2人は「子爵さま」と呼びかけ、ミヒャエルに至っては「フェレットと、あ、いや、娘さんとの交際を」お願いするものの、目に見えない力が働きフェレットはその場にすっ転ばされ、あまつさえ全身を血飛沫で染める事態へと追い込まれる。そんな悲惨な兄の姿に悲鳴を上げる……否、そんな無様な兄の姿を笑顔で見つめるヒルダ。2人は何? 棺桶の中にいるのは誰? ほのかに疑問の浮かぶプロローグから物語は幕を開ける。

 以下、ゲルハルト・フォン・バルシュタインという名の吸血鬼が養子に迎えたレリックという少年と、フェレットいう少女の双子の子供の吸血鬼がなぜか横浜市で暮らしていて、バルシュタイン城へと乗り込み棺桶の中に眠っていた吸血鬼を捕らえ閉じこめることに成功したヴォッドという名のそれほど強くはないものの、道化や変幻自在のモンスターや東洋人のマジシャンを従えた男がいて、依頼を受けて世界を飛び回り吸血鬼を退治して歩くハンターがいて、吸血鬼を食べてそのパワーや能力を自分のものにしてしまう食人鬼の少女がいて……といった具合にてんでばらばらな一群が跳梁し、跋扈するエピソードが代わる代わるに繰り出される。

 でもってそんなエピソードが、重層的で多面的に重なり繋がるキャラクターがたちにそれぞれの持ち味を存分に発揮してもらいながらも、物語自体はキッチリとコントロール下に置かれ、錯綜せず暴走もしないでエピローグにある「棺の中の十人十色」のタイトルそのままに、それぞれの集団のそれぞれのキャラクターたちが抱えた問題なり、悩みなりにひとつひとつ落とし前を付けて結ばれる。なおかつメインとなるストーリー、つまりはゲルハルトとレリックとフェレットの家族問題にもきっちり決着が付けられる。

 人死に溢れて悲しさとは裏腹の気詰まり感じを覚えさせる殺伐とした展開へとあまり向かわないのも成田良悟の特質だとしたら、「ヴぁんぷ!」でもそれは存分に発揮されていて、大逆転に次ぐ大逆転の果てに心地よい気分の中で読み終わらせてくれるのも嬉しいところ。この心地よさで幕引きとなれば綺麗は綺麗だけれど、一方でこれでもかといった感じに叩き込まれたキャラクターたちの、このあとの姿も読んでみたい気にさせられるのもやっぱり成田良悟ならでは。体質(?)が変わってしまった食人鬼のこれからは? 血まみれにされても立ち上がったミヒャエルとフェレットのこれからは? 知りたい。読んでみたい。読ませて欲しい。読ませなさい!

 吸血鬼についての描写でも「ヴぁんぷ!」は近年希に見る大快作。あかつきゆきやの「輪廻ノムコウ」(電撃文庫、570円)では迫害された果てに吸血鬼となった魔女たちが、裏切った一族を狩るエピソードが描かれ、完結なった渡邊裕多郎の「日出づる国の吸血鬼3」(ソノラマ文庫、495円)では、洋の東西を超え時代すら超えて吸血鬼が魂となって人に宿り蘇ってはバトルを繰り広げるエピソードが描かれるなど、”吸血鬼もの”が大流行している昨今にあって、「ヴぁんぷ」は吸血鬼にはどんな種類があるのか、吸血鬼は強いのか、吸血鬼とはそもそも何なのかを教えてくれて勉強になる。

 とりわけ主役中の主役。ゲルハルト・フォン・バルシュタイン子爵の姿のイカレっぷりは素晴らしく、かつてない吸血鬼像を与えてくれる、というかこんな吸血鬼はアリなのか? お歴々が並ぶ吸血鬼研究家の人たちに是非に解釈してもらいたいところ。ともあれ圧巻にして極上のスラップスティックバンパイアコメディ。この才能を日本のエンターテインメント小説界は早急に迅速に確実に絶対に万人の目の及ぶ場所へと引っ張り出すべきだ。


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