「特急便ガール!」「超特急便ガール!!」

 配達小説、と聞いてまず挙がるのは、小川一水による「こちら郵政省特配課」のシリーズか。月に結婚式場を建て、海底にメタンハイドレードを探し、彼方の星で大地震に惑乱する人々を導こうと苦闘する、若き執政者を描いた彼の作品では珍しく、現代を舞台とした作品。超越的だったり、超常的だったりする力や技術は取り入れず、考え得る実在のテクノロジーの遂を寄せ集めては、あらゆる荷物をどこにでも届ける職務に挑む、プロフェッショナルたちの活躍を描いてみせた。

 電撃文庫から出た増子二郎の「ポストガール」シリーズは逆に、荒廃して滅亡に近づく人類に代わって、荷物を届けるロボットの少女を主人公としたSF設定のライトノベル。描かれるのは、シルキーという名の少女のロボットが、荷物を届ける旅程とそして届けた先々で出合う人たちの交流を通して、感情のようなものを芽ばえさせていくという、人工知能の心の問題に挑んだ、変化と成長の物語だった。

 その荷物を欲する者たちがいるから、特配課のメンバーはどんな手段でも使って荷物を届けようと一所懸命になる。その荷物を受け取った人の機微から、ただの機械に過ぎなかったシルキーは、あり得るはずのない感情を育み変わっていく。荷物はたしかに“物”でしかないのかもしれない。けれどもただの“物”ではない。そこには送り主の思いが込められ、受け取り人の喜びが乗っている。だから、届けようとする者たちを突き動かすのだろう。

 電撃文庫から「ヴァンダル画廊街の奇蹟」というシリーズでデビューした美奈川護の新シリーズ「特急便ガール!」(メディアワークス文庫、590円)では、そんな荷物に込められたさまざまな思いが、配達する人の体をとんでもない方向へと動かしてしまう。日本でも有数の商社に総合職と入り、役員秘書となって将来を嘱望されながら、訳あって上司を殴ったと言い張り、半ば強引に退社した吉原陶子。ゆく当てもなかったところに、同期の男子から義兄がやっているという会社を紹介された。

 そこはバイク便のサービス会社で、訪ねていった陶子はいきなり社長の如月という男からハンドキャリー、つまりはあらゆる交通機関を乗り継ぎ、手で直接荷物を届ける仕事を言い渡される。反論しようにも陸上で鍛えた感性が、ストップウォッチを取り出し合図する社長の言葉に逆らえず、根っからの負けん気の強さもあって荷物を手に飛び出していく。そして、社長の仕掛けたトラップもかわして、時間内に配達をし終えてしまう。

 もちろん採用。当人にはそれでも務める気はなかったものの、先輩ライダーの挑発めいた言動に、やはり負けまいと働き初めてみた。そこで妙な現象が起こって陶子を大いに戸惑わせる。如月の友人がルームクリーンサービスをやっていて、そこで見つかった品を京都まで配達して欲しいと言われ、ならばと新幹線で向かおうとした時、車両の扉を開けた陶子の身にとんでもないことが起こってしまった。

 一刻を争う老女のところに瞬時かけつけ、大阪と札幌に別れてしまったヴィオラ弾きの女性と、男性との間を行き来して思いを結ぶ。時には手早い対応を喜ばれ、時には思いがけない遠回りを陶子に強いて困らせる。なぜそんな現象が起こるのか。想像するならそれは、配達を頼まれた荷物に残った思いなり、受け取る側が荷物に託した思いが現れたものだ。荷物に振り回されるように、まさに東奔西走する陶子の姿を通すことで、ひとつの物を介してつながり、重なりあう人の気持ちを読む人に感じさせる。

 配達人はただ運べばいいかもしれない。いわれたことをやっていさえいれば足りる仕事かもしれない。けれども、それだけでは漏れてしまう、こぼれてしまう様々な人間の思いがる。それをすくいあげ、かなえてあげる。そんな陶子たちの働きぶりを読むことによって、人は合理性やら対面やらで捨ててしまいがちになる、心の大切さというものを感じるのだ。

 続編の「超特急便ガール!!」(メディアワークス文庫、650円)でも、運ばれる荷物に込められた、運んで欲しい人の思いや、受け取る人の願いがくっきりと見えてきて、荷物が媒介となって通う人の感情の熱さ、美しさに触れられる。別れた妻が連れて行った娘に、人気のぬいぐるみを渡したかった父親の思いをかなえ、事故により無くなった創業社長が届け損なった、荷物の行き先を見つけだして社内に漂っていたわだかまりを晴らす。

 運ぶ機械ではなく、運ばれる物ではない荷物と配達人の喜びや悲しみに触れて、そこを居場所にしたいと思うようになる陶子。けれども、一方では少しばかりの未練も抱えてまよっていた彼女に、ひとつの選択がつきつけられる。そこで出した答えとは? そして起こった幻想とは? 1段上がった陶子の力がこの次ぎに何を運ぶのか、それによって誰がどんな喜びを得るのか。楽しみがふくらんできた。

 リストラに喘ぎながらも時分自身を失わず、常に前向きで力強く生きる陶子の姿は、働く女性や男性に大いに人気となりそう。強烈だが突飛ではないキャラクター描写は、ライトノベル出身ならではの特質。その強さが感動のストーリーを絡みあって、読み手に夢と希望にあふれた至福の時間をもたらしてくれる。ライトノベル出身だからと気にせず、そして一般小説だからを敬遠せず、すべての人に手に取って欲しい作品だ。


積ん読パラダイスへ戻る