「ソウルソードスーパースター<上>接触篇」
「ソウルソードスーパースター<下>発動篇」

 ゲームやアニメーションの「Fate/Stay Night」で聖杯戦争を戦うのは確か7人。六塚光のライトノベル「レンズと悪魔」(角川スニーカー文庫)は8眼戦争といっているから8人がひとつの目的をかなえるために戦い合って殺し合う。

 いずれにしてもケタは1ケタ。前回の生き残りといった乱入があってもせいぜいが1ダースといったところが殺し合ってこそ、それなりの時間内ににきっちりと収まりつつ、世間的にもそれほど影響を与えないバトルロイヤルを繰り広げられる。

 圧倒的な力の持ち主を知恵と勇気で大逆転して打ち倒して勝ち上がる。そんな楽しさを与えてくれる設定ということで、人気もあって他にも類似の作品も多く出て、いずれもそれぞれに楽しませてくれている。

 とはいえそれだけに、当たり前の発想ではもはや世にインパクトは残せない。ならば、ということで森橋ビンゴが「ソウルソードスーパースター<上>接触篇」および「ソウルソードスーパースター<下>発動篇」(いずれも徳間デュアル文庫、各676円)で打ち出したバトルロイヤルに参加する人間は実に100万人。これはちょっと驚かされる。

 千葉市の人口ををやや上回る膨大な数の人たちが、出会う度に殺し合いをした日には、毎日どころか毎分のように大騒動が起こって誰かの目につき、傷もつく。国だってこれには黙っていられないだろう。波及する影響が半端ではない。

 だからといって「ソウルソードスーパースター」では、100万人は100万人であって1万人ではない。1万人だって多すぎるくらいなのにその100倍もの人が戦い合って、いったいどんな血まみれ汗まみれの事態が起こるのか。それどころか国が1つぶっ飛んだって不思議ではない争いが待っているのかもしれないという想像もうかぶ。

 もっとも、現時点ではまだそこまでになっていないのは、あくまでこの上下巻がプロローグ的な役割を担っているから、だろう。そう思うより他にない。

 桜井太曜なる高校2年生が、学校に行く途中で出会ったのは流れ星。それがなぜか自分へと迫ってきた。触れると流れ星は消滅し、自分は意識を失った。

 気づいた時には綺麗さっぱり流れ星のことは忘れていたけれど、その後に周囲に起こった事件が、やがて太曜に流れ星の正体を知らせ、そして自分が世界にまたがるとんでもない争いに巻き込まれたことを知らせる。

 「ディバインソウル」なる存在が100万に分裂して星となって、1万年ごとに降り注いでは100万人の人間に同化し、不思議な力を発現される。それを扱う者たちが倒し合って相手の力を集め合った果てに来るのは、ディバインソウルそのものの復活だ。

 永劫の力をもたらすディバインソウルの力を我が物にしたいという野望。それをかなえようと、世界では1万年ごとに100万人が殺し合うバトルが行われていたという。さらに今、太耀にピースが入ったことで本格的に始まったということらしい。

 欧米あたりでは100万をかき集めて力を得たいと願う輩が登場し、いずれ争う構えを見せながらも現時点では取りあえず協力し合って、ピースの数をまとめようと画策している。対して日本では、太曜を見つけて引っ張り込んだ「邪宗門」という集団があって、誰も殺し合わうことはなく、逆に守り合って敵をしのぐことを目指してた。

 とはいえ、相手が殺す気で来る以上は戦うことになるのは必然。そんな渦中に出現したピース持ちの太曜を、「邪宗門」は見方か敵かと見定めた上で見方に引き入れ、狙ってくる敵を倒し、さらに蠢く陰謀から現れた刺客を退ける。

 ここから、人によって異なる発現のしかたをする力のバリエーションの面白さと、そんな異なる力と力が見せかけの強弱を乗り越え、知恵と勇気によってぶつかり合っては大逆転のドラマを生み出す楽しさが味わえる。

 倒すことによって1つのピースが現れ、それをつかんでようやく身に取り込めるという仕組み。ならば、その倒した相手が100のピースを集めていたとしたら、現れるそれをつかみ取りしていかなくてはいけないのか。

 100ならまだいい。数がまとまって23万3842個とかになったら、どうやってつかみ取ればいいのか。そんな謎もある一方で、誰がソウルソード持ちなのかを探すのも面倒だから、街なり国ごと全滅させれば、そこから浮かんで来るピースを拾おうって考える不敵な輩が出てこないとも限らない、という懸念も浮かぶ。

 ふくらませ過ぎたが故に起こる事態。とはいえ現時点ではそこまで行っておらず、現実がどうなるのかはこれからの筆の進み具合から判断するより他にない。今はだから、剣を基本にしたバトルで千差万別に現れる能力を楽しみ、コレクションするような気持ちで見ていくのが良いのかもしれない。

 いきなり出現した巨大なすりこぎみたいな剣を手にして、先端を回転させたりして相手をねじ伏せる発想を生みだした太曜もなかなかの強者。たった1つでそこまでの武器を作り出せるということは、100個1000個とピースを集めていった暁に、いったいどんな戦士になるのだろうか。それほどの力を得てもなお、それまでどおりの臆病で嘘つきで冷静で強靱な人物であり続けられるのだろうか。

 欲望が招く堕落に弱い人間の業。太耀もその業に逆らえないのか。踏みとどまっていられるのか。そうしたキャラクター面への興味も含めて、今後の展開がどうなるのかを待とう。太耀の姉という火乃恵の正体と、その能力の凄みにも期待しながら。


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