スカイ・ワールド SKYWORLD#01

 「約束の方舟」でSF方面へと名前が抜けた瀬尾つかさが、「琥珀の心臓」でファンタジア長編小説大賞の審査委員賞を受賞しデビューした富士見ファンタジア文庫で、「調停少女サファイア」に続く新シリーズとなる「スカイ・ワールド」(富士見書房、580円)を出した。

 そこでは、オンラインゲームのひとつで、大勢が同時にアクセスしては、ファンタジー調の世界を冒険して楽しむ『MMORPG(マッシブリィ・マルチプレーヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム)』と呼ばれるジャンルのゲーム世界に、なぜか取り込まれてしまった人々の物語が繰り広げられる。

 ある朝に目覚めると、そこは直前までパソコンで遊んでいたオンラインゲームのワールドが、そのまま現実になったような世界だった。架空の世界へと実体を伴って引きずり込まれた形のプレーヤーたちは、ゲームを始める時に選んだ職業やスキルを引き継いだまま、オンラインゲームの上での戦いや社会の中へと放り出されてしまう。

 遊んでいたゲームの世界に、身ごと放り込まれてしまうというのは、川原礫の「ソードアート・オンライン」(電撃文庫)とも重なる設定。ただ、頭に着けるデバイスを通して、感覚をゲームの世界に移して楽しむタイプだった「ソードアート・オンライン」とは違い、「スカイ・ワールド」はモニターの中にあった世界に、不思議とその身が入り込んでしまう。どうしてそんなことが起こったか。それはまだ分からない。

 「ソードアート・オンライン」はまた、ゲームの世界で死ねば、デバイスが繋がれている脳が焼かれて、肉体も死んでしまうと聞かされ、脅威に怯えながらも脱出を模索するストーリーだった。「スカイ・ワールド」の方はそこまでシビアでシリアスな世界ではなさそう。1度の死なら装備を置いた姿で再生されて、ゲームの続きを楽しめる。ただし、手にしたタブレットの充電がゼロになるとその時は、ゲームの世界から消えてしまう。

 短い時間に連続して3度の死を迎えれば、起こるそうした排除の先が、「ソードアート・オンライン」のように肉体の死なのかは分からない。仄めかされるのは、病室に意識不明でつながれた肉体を見守る現実の人々ではなく、突然に消えてしまったプレーヤーたちを訝る現実の人々。そこには「ソードアート・オンライン」のような現実から想像できるテクノロジーとはまた違う、要素が働いているように見える。

 そんな目新しい設定を背負った「スカイ・ワールド」に登場する主人公の三木盛淳一朗ことジュンは、前からMMORPGを楽しんでいたこもあって要領が分かっていて、空中に島が浮遊しているようなゲームの世界に送り込まれても、クエストをクリアしてアイテムなどを手に入れては、あちらこちらを旅しながら、ゲームのクリア条件にされていてた、最上層の島を目指そうとしていた。

 ところが、、途中で立ち寄った島で、パーティーに所属してゲームの世界を旅していた途中、飛行艇から落ちてしまった有香崎かすみ少女が、しばらく先に来るらしい飛行艇を待つあいだ、地元にある女子ばかりの騎士団に入って、戦いをさせられながらも、どこか居心地の定まっていない様に行き当たる。別に上を目指さなくても、そこにいて、だらだらと戦ってさえいれば毎日を気楽に過ごせる「スカイ・ワールド」で、ひとり飛行艇に乗って脱出を目指すかすみへの複雑な心境が、親切そうに見える騎士団のリーダーの中に渦巻いていた。

 年長だからとリーダーになって、権力を振りかざせる環境をずっと続けたいと停滞を願うリーダーに、反感を抱いていたのは、やはりかすみと同じ騎士団にいて、実は百戦錬磨のMMORPGのゲーマーだったエリという白魔術師の少女も同様。2人はジュンといっしょに、島から出ていくために必要な飛行艇を奪取するモンスターとの戦いに向かうけれど、そこに逆恨みをしたリーダーの妨害が入る。

 3人は果たして無事にに島を出られるのか。そしてさらに現れるもっと強大な意志を、3人はどうやって受け止め、かわし、上を目指すのか。興味を引かれる。

 戦い方や仲間の作り方など、MMORPGのチュートリアルを読んでいるようで、これに従えば今すぐに、新しいMMORPGに参加できそうな気にさせられる。権威を振りかざす騎士団のリーダーのようなプレーヤーの存在は、現実に存在する人間たちが、大勢でひとつのゲームを楽しむようなタイプのMMORPGに参加する難しさというものも教えてくれる。

 ただでさえコミュニケーションが苦手なゲーマーが、ゲーム世界で必要とされるコミュニケーションを学ぶ必要があるという逆説。興味深い。

 最後にジュンの前に現れた存在をいなして、島を出たジュンとかすみとエリの3人が、次にいったいどんな世界を目の当たりにするのか。一方で、世界の果てを目指す存在がそこにたどり着いた時に何がおこるのか。そもそもがどういう原理で、このゲーム世界が現実のものとして大勢に感じされているのか。そうさせたのは誰で何を目的としているのか。明かされない多々ある謎を追いながら、これからの展開を楽しんでいこう。


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