セブンサーガ 〜七つの大罪 赤き竜は憤怒に燃えて〜
セブンサーガ2 〜七つの大罪 氷の王国は怠惰に眠る〜

 悪の組織の戦闘員として生み出された少年が、同じ境遇の少女を守りながら、仲間の戦闘員たちが正義の味方の理不尽とも言える攻撃の前に次々に倒れ、怪人も退けられていく中でひとり、大逆転を狙って正義の味方を相手に戦いを挑む「VS!! −正義の味方を倒すには−」から始まる「VS!!」シリーズからしばらく。和泉弐式が復活とばかりに投入してきた作品は、異世界を舞台に運命を背負った少年が、真実を求めて彷徨する大河ファンタジーだ。

 その第1巻「セブンサーガ 〜七つの大罪 赤き竜は憤怒に燃えて〜」(電撃文庫、610円)では、過去に統一を成し遂げながらも7つの国々に分裂してしまった世界で、ペルガモンという名の王国の辺境が、大国のラオディキア帝国によって攻められ、騎士の父親も母親も死んでしまい、残されたラファエル・ルーサーという名の息子がひとり、うち捨てられた赤ん坊共々生き延びては6年7年を経て、父親を裏切ったクルセウス・ガブリエルという名の騎士を追い詰め、どうにか倒して復讐を果たして大団円。

 かと思ったら、どうもそうではなかったらしい。国々に封印された七つの大罪なるものを復活させる鍵となる紋章を、ラファエルが持っていたこととも相まって、彼をめぐっていろいろと騒動が巻き起こる。最初のうちラファエルは、得られる大金が目当てでそうした大罪のありかを記した地図を探していただけだったけれど、ペルガモンの騎士団に露見して捕まってしまう。

 そして大罪のありかを探すために協力するよう約束させられたラファエル。けれどもそこに襲ってきた敵がいて、強大な力で父親とも知人だった騎士団長を倒した果てに現れた人物は、少し前に倒したはずのクルセウスだった。どうして生きているのか。誰が何かの目的で操っているのか。そこから、大陸に散らばった七つの大罪を見つけ蘇らせようとする勢力があり、その力のうち<憤怒(サタン)>と呼ばれる猛火を操る力を背負ったラファエルが、その力をどう使ってそうした勢力に立ち向かって世界に平和を取り戻す、大冒険の旅が幕を開ける。

 世界を創造し、世界の理(ことわり)を裏から操る神とも悪魔とも言えそうな存在を送り込んで紡がれる物語が、とてつもなく壮大なものとなることは確実。実際、続く第2巻「セブンサーガ2 〜七つの大罪 氷の王国は怠惰に眠る〜」(電撃文庫、690円)でもその予感は受け継がれ、世界を混沌へと陥れようとする悪意のようなものが仄めかされる。その上で翻弄されるラファエルと、彼が救い育てたイブという少女、そしてペルガモンの騎士で、隣国ティアテラの名家に生まれたセルシア・ガブリエルという少女の運命に陰を落とす。

 ペルガモンで起こった事件によってラファエルは追われる身となり、イブを連れて隣国のサルデスに逃げようとする。もっとも、そこは1年のほとんどを雪と氷に閉ざされた国で、なおかつペルガモンとは敵対関係にあって、容易には進入できなかった。そこに追いついてきたのがセルシアで、ラファエルの無実を信じて彼とともにサルデスへと向かうことを決め、どうにか国境を越えたところで3人は、狼に追われていたひとりの少女を救う。

 驚くような身の上だったその少女の導きを得て、サルデスにどうにか落ち着いたラファエルたちだったけれど、敵国人といsて向けられる視線は厳しく、スパイではないかという疑いもかかる中で、七つの大罪にまつわる話を聞き、クルセウスの居場所も探そうとする。そこに持ち上がった大きな出来事。かつて友好国としての関係を結び、信頼させておきながらも援軍として向かった女王を殺めたペルガモンを憎む気持ちが爆発しそうになる。

 戦争。行えば大勢の命が奪われ、財政難にあえぐサルデスの国力にもいろいろと支障が出そうな大事だけれど、それでも積年の恨みを晴らすには今しかないという思いで溢れたサルデスを、どうにか止めようとしてラファエルやセルシア、そして彼らが山で助けた少女は動く。女王殺害という事件の真相を解明することが突破口になると考えた3人の必死の活動が繰り広げられる。

 第1巻から版図をやや広げ、戦乱の中で国々が生き延びようとして頑張っている姿が浮かび上がって来た第2巻。憎しみの連鎖にとらわれて滅びへの道をひた走ることを止め、対話を求め理解を深めて平和を勝ち取ろうと願った高潔な思いに触れられる。それが続いていたらといった悔しさのようなものも感じつつ、これから作っていけば良いのだと、思ったところに突きつけられた物語自体の中断の可能性。どうして? という不思議が無念と共にまとわりつく。

 まったく新しい世界を創造して描く物語は、その全貌が見えてようやく輝き始める。それまでは遠くに見える灯りを頼りに、これからどんな物語が紡がれ、世界が示され、その上で登場人物たちがどれだけの苦闘をするのかを、噛みしめながら読んでいくことが求められる。そこに大団円のカタルシスはなくても、想像という楽しみは存分にある。そして本当の大団円にたどり着いた時に、得られるカタルシスは単巻の何億倍にも達する。

 今、まさにそうした将来への楽しみが染み出し始めている物語を、ここで止めてはいけない。希有なスケールを持った世界が紡がれる可能性を、ここで奪ってはいけない。断じて。絶対に。

 だから願う。物語の続行を。そして乞う。「セブンサーガ」という世界の全貌が明らかにされることを。自らを削りながら世界を彷徨していくラファエルを通して描かれる、未だかつてない世界救済の物語を是非に、最後まで、届けて欲しいと心から叫ぶ。


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