セキララ!!

 ネット上に創作物を発表しては、素晴らしい出来映えだといい気持ちになって自画自賛。そんな自分を素晴らしい、最高だと持ち上げてくれる一部のファンに囲まれ、舞い上がった果てに、こんなに素晴らしいなら他からも絶賛を浴びるはずだと他流試合に打って出ては、場違いな奴だとコテンパンにされて逆ギレして大爆発。

 そんなはずはない、見る目がないと暴走し、一部の熱烈なファンも呼応して大暴れした挙げ句、収拾がつかなくなってふと我に返って怖さ、みっともなさに気づき、真っ青になった記憶のある人だったら読んで戦慄すること間違いなし。そんな渦中に今まさにある人も、読んで将来に起こり得る事態に気づかされるだろう。

 花谷敏嗣の「セキララ!!」(ファミ通文庫、600円)は、美少女剣士が超常的な力を持った敵を相手に戦う内容のネット小説から、美少女剣士が現実の世界へと出てきてしまうというストーリー。近くにいた男子を造物主的にあがめつつ、現実世界のテクノロジーなどに戸惑いながらも、起こる事件に立ち向かう。

 聞けば七月隆文「ラブゆう」(集英社スーパーダッシュ文庫)にも似た設定ながらも、読めばすぐに違うと分かる。「ラブゆう」のような、現実世界でファンタジー世界のような事態が起こって、誰もが戸惑うドタバタ劇はあまりなく、むしろ主人公の少年が、過去に葬り忘れ去ろうとしてきた若気の至りから逃げようとして逃げられず、あがきもがいた果てに対峙する勇気を得て、どうにか乗り越えていこうとする話がメーンになっているからだ。

 主人公の拓巳は、かつてネット上に自作小説「邪王聖戦記」を発表してそれなりの人気を得ていたものの、今はネットから足を洗い創作も辞め、明るく学校内でバンドを組んでボーカルを担当しては、さわやかさから女の子たちの人気を得ていた。桜という名の彼女も出来て順風満帆。オタク生活も過去のものと割り切って暮らしていたところに嵐が起こる。

 「邪王聖戦記」のヒロイン、火琉奈が小説もそそままの姿で拓巳の前に現れた。ネット上でかつて行った傍若無人なふるまいへの自責と自嘲から、ネットを逃げ出し健全男子を気取っていた拓巳にとって、「邪王聖戦記」触れられたくない忌まわしい過去。連れていた桜ともども通り過ぎようとしたもの、向こうは自分を小説の主人公の“タクミ”と感じ、小説の中のセリフで話しかけて来たからたまらない。

 もしかすると、自分の過去をほじくりかえそうとする存在で、コスプレまでして脅かそうとしているのかと危ぶみ、桜を先に帰して火琉奈に意図を問いただす。ところが相手に一切の含みはなく、小説の内容そのままの技まで出して、拓巳に本物の火琉奈であることを認めさせる。

 どうしてそんな事態になったのかまでは不明ながらも、フィクションではよくある、非現実の現実化が現実に起こっているのだとその場を理解。過去を振り払った時にまとめて消してしまった「邪王聖戦記」を発掘し、内容を思い出してはこれから起こるだろう事態に備えようとする。

 もっとも、学校ではさわやかなミュージシャンで通っている拓巳が、かつてネットで大暴れした人間だと知られる訳にはいかなかった。、学校でもネットに詳しそうな人間に接触して、「邪王聖戦記」の過去ログを発掘しようとした時も、ネットで騒動を起こした際に、仲裁に入ってくれた人に「邪王聖戦記」の展開を聞こうとした時も、自分が当の創作者であることは黙っていた。

 けれども、「邪王聖戦記」のストーリーそのままに、火流奈を狙う敵が現れ命が危機にさらされた時、拓巳は非難されることを承知で過去をさらけ出して、敵と対峙することを迫られる。

 どう隠したって過去は存在している訳で、人はそこから永遠に逃げ続けることはできないのだということを、強く思い知らされる物語。自分ひとりが隠れた気になっていても、周囲にはしっかりと過去を知って近づいてきて、それでも黙っている存在がいるかもしれないということも、知らされちょっぴりの怖さと、それでもそんな自分を慕ってくれているのだという喜びが浮かんで、居住まいをただされる。

 「ラブゆう」で現れた国民的なゲームのヒロインだったロザリーの場合は、「かしこさ40」であるが故に現実世界をファンタジー世界のままだと混同して、動き回り暴れ回ってさまざまなドタバタを引き起こし、それが面白さにつながっていた。「セキララ!!」の火琉奈は、IQが180近くあって、状況を理解し言いつけを守る理性を備えていたため、隠れていろと言われれば隠れたままで、異世界の技も滅多なことでは披露せず、あまり混乱を起こさない。目立たないと言えば言えるキャラクターだけれども、本筋が拓巳の過去との対峙にある以上はこれで妥当な扱いか。

 すべてが解決して、過去と向かう勇気を固め、コミュニケーションの大切さを知った拓巳が、なおも居残りそして加わった少女2人の存在に挟まれながら、どんな新たな物語を紡ぎだしては今ふたたびの恥ずかしさに苛まれるのか、それとも恥ずかしさを越えていけるのか。これからに注目。


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