3年間で身長が20センチほど伸びると、3年前の現役時に着ていた魔法少女の服装は、動くだけで破れてしまうものらしい。それなら是非、現役を引退してから3年経った魔法少女たちには、こぞって昔の服を引っ張り出して着て欲しいものだけれど、赤瀬川夏恋という元魔法少女のその衣装は、タンスにしまってあるものではなく、変身したら身に張り付いて現れるもの。たとえ3年経っても魔法少女としての力が残っていれば、ちゃんと体のサイズに合わせて大きいものになる。

 そして夏恋はそうではなく、力が弱っていたか臆して出し切れなかったようで、3年経って身長が伸びてあちらこちらが出っ張った姿で変身をしたところ、衣装のサイズは前のままであちらこちらが破れてはじけそうになっていたし、実際にはじけ飛んでしまったという顛末。見たかったなあというのが年若い少年たちの本音だろうけれど、でも考えればちょっと可愛そうな気もする。

 だから灰川祭は立ち上がった。英雄になるために。

 そういう格好いい感じの話だと言えば言えるし、それではちょっと意味が分からないと言われればそうかもしれないし、そしてもうちょっとかっこ悪い話だとも言えるのが、石原宙の「世界で2番目におもしろいライトノベル。」(ダッシュエックス文庫、600円)だ。

 ふらりと入った古本屋で見かけた、バイト募集のビラが読めてしまった高校生の少年、灰川祭は、そこにいたリャーリャ=パヴロヴナ=リトビャノフという名の元勇者という女性に引っ張り込まれ、元異世界の救世主や、元学園異能の覇者らが否応なしに持ってしまっている英雄係数をその身に引き受け、彼やら彼女たちやらが安心して暮らせるようにする仕事を請け負う。

 そんな相手のひとりが元魔法少女だったという赤瀬川夏恋。変身する能力は持っていたものの、過去にいろいろとあって力を封印して今はごらんのとおりに中途半端。それでも残る力を灰川は引き受けるものの、そのままでいれば自分を中心にとんでもない事態が起こってしまう。だから普段は抑えていたものが、ある事件で炸裂させてしまうことになる。

 かつて大活躍した魔法少女が現れたという話を聞いて集まってきた、かつて魔法少女に倒されたものたちによる復讐劇に巻き込まれてしまった灰川が、己に蓄積された英雄係数をぶちまけとったその解決策。見て見苦しくもあるけれど、それでもやっぱり誰かのために戦う姿はカッコイイ…のかどうなのか。難し決断を迫られるものの、勇気ある行動に少しは美少女も引き付けられた感じ。

 元勇者に元救世主に元学園異能の覇者も参戦し、さすがは英雄といったところをのぞかせ、元魔法少女も自分をどうにか取り戻し、そして片付いた事件のあと、灰川はそんな不思議な彼らとの付き合いを物語にして綴った、それが「世界で2番目におもしろいライトノベル。」ということになる。1番目は別にある。それは灰川と夏恋の思いの中に。永遠に。

 そうやってライトノベルが書かれたライトノベルとも言えそうな物語。1番目か2番目かはともかく、読んで面白いかは、自分が英雄になりたいと憧れたことがあるかどうかにもよるだろう。心に秘めたうそうした願望が引っかかって、いつか自分もという活躍を夢みさせてくれる物語と感じる人もいるだろう。

 逆に、迷惑極まりない展開に、はやく英雄なんて辞めたいと思うかもしれないけれど、それも英雄というものになってから初めて言える贅沢かもしれない。だからやっぱりなってみたい英雄。そのためには行かなければならないだるま堂古書店。そこで買わなければいけない「わが軍の姫騎士がめちゃシコで本官らめぇぇぇぇぇぇ」。それを美人でグラマラスな店員に差し出して、目の前でタイトルを読まれて「奮ってるね」と言われて初めて君は、英雄となる道への第1歩を踏み出せる。

 ハードル高すぎだろ。


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