聖地巡礼
アニメ・マンガ12ヶ所めぐり

 アニメーションやマンガに出てくる場所で、是非に行ってみたい場所があるとしたらまず挙げたいのが「天空の城ラピュタ」に出てくる空中都市ラピュタの管制室。そこに陣取り電撃を放ってはムスカよろしく「見ろ、人がゴミのようだ」と高笑したいともう10数年も願っているけど、残念にも日本の上空にラピュタが現れるのにはまだ間がありそうで、生きている間に適いそうもないため半ば諦め「六本木ヒルズ」の展望ルームで、東京の街を見下ろしながら心の中で叫ぶに留めて我慢している。

 他に行ってみたい場所を挙げるとしたら「未来少年コナン」に出てきた「残され島」か。海で鮫を仕留めて掲げて海岸へと上がって、そこで砂浜に打ち上げられて気絶している少女を見つけて「どうしてこんなところで寝ているの?」と言って目覚めた彼女の前に、鮫を突きだし再び気絶させてみたいとこちらは20数年願ってる。こちらも残念にも「残され島」が近所になく、あっても鮫と戦う体力がないためやっぱり諦めるより他にない。無念。だが仕方がない。「残され島」が出来る為には人類が一度、滅びなくてはいけないから。

 もっとも1番2番の願いにこだわらなければ、行ってみたいと思っていてそして実際に行けるアニメやマンガの現場はある。もう幾らだってある。東京23区あたりで手っ取り早く行けるとしたら東京都千代田区にある神田神保町がその筆頭。ビブリオマニアの読子・リードマンという紙使いが「大英図書館」の最初はエージェントとして活躍し、後に敵に回って香港から来た紙使い3姉妹といっしょに戦う物語を描いた「R.O.D」という小説とアニメとマンガで舞台になった、世界でも有数の書店街がそこにある。

 行けば例えば文省堂の路地に面してズラリと並んだ100円文庫に三省堂書店神田本店のすずらん通り口などなど、アニメで読子が本を選ぶためにしゃがみ本を手にぶら下げて歩いた場所を目の当たりにできる。本好きの聖地にして「R.O.D」ファンの聖地が神田神保町なのだ。流石に読子が住居にしている、上から下まで本でいっぱいのビルはどこにも存在しないが。あったら埃も凄かろう。

 ちょっと足を伸ばして箱根に行けば、そこには「新世紀エヴァンゲリオン」で描かれた光景が広がっている。箱根湯本駅に行けば父親の碇ゲンドウと仲違いした碇シンジが送り届けられた新箱根湯本駅がそこにある。芦ノ湖脇の桃源台へと行けば展望台からタワーのそびえる新第三東京市を湖岸にそなえた芦ノ湖の光景を瞼の裏に見ることができる。逃亡したシンジが寂しさを抱えながら見下ろした雲のたなびく大湧谷はまさにそのままの光景。箱根はまさに「エヴァ」の聖地。すなわちアニメファンの聖地なのだ。

 そんなアニメやマンガのファンにとっての”聖地”を全国に12ヶ所、訪ねて歩いてルポした本が柿崎俊道の「聖地巡礼 アニメ・マンガ12ヶ所めぐり」(キルタイムコミュニケーション、1500円)。神田神保町や箱根は言うに及ばず都内では「げんしけん」の舞台となった東京都八王子市にある中央大学多摩キャンパスのサークル棟から、遠く岡山県にあって、「天地無用! 魎皇鬼」で柾木天地が魎呼と出会った岡山県にある「鬼の差し上げ岩」、天地に魎呼に阿重霞に砂沙美たちが暮らす「柾木神社」と同じ外見の「太老神社」等々、ファンなら1度は詣でてみたい場所が豊富な写真と的確な文章で紹介されている。

 驚くべきはゆうきまさみの原作にしてアニメ化もされ熱烈なファンを獲得して今なおマスターピースの誉れ高い「究極超人あーる」の聖地。春風高校などではないし、鳥坂先輩が鹿と戦った奈良の春日山でもなく愛知県豊橋市から伸びる「JR飯田線」というのがマニアックにもツボをとらえて素晴らしい。知る人ぞ知る路線の、知る人すらあまりいない田切駅を訪ねてアニメの場面と重ね合わせて、昔と変わらない光景に涙するも良し。豊橋駅の駅前に出て鳥坂たちが寝ていたベンチが消えて、ガラスのピラミッドが出現している現在に流れた時の長さを感じるも良し。幾らだって楽しめる。

 「アベノ橋魔法☆商店街」の王子本通商店街に安倍晴明神社に阿倍王子神社。「ラーゼフォン」の吉祥寺駅に池袋駅に聖橋。「魔法遣いに大切なこと」の下北沢駅前に「コメットさん」の鎌倉駅舎や西口公園。あるみとサッシの駆け回った商店街だ。岩手から来た菊池ユメが迷った街だ。コメットさんが一夜を過ごした時計台だ。行けばそこにアニメの現場が見られ、感動の物語が思い出される。

 遠くは「朝霧の巫女」の広島県三次市まで足を伸ばした聖地巡礼。12ヶ所の他にも近藤喜文監督の遺作となった「耳をすませば」で少女が「カントリーロード」を日本語で歌って走った聖蹟桜ヶ丘等々、広く集めて細かく紹介していく内容は、アニメファンにマンガファンの願望を一身に背負って叶えてあげたいという著者の強い信念が溢れて力強い。これだけの場所を訪ねた苦労たるやいかばかりか。使った費用たるやいかほどか。自腹? そんなことはないだろうけど、自腹を切ってでも行きたい場所であることは間違いない。

 取り上げられなかった場所は数多い。「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の舞台となっている浅草に亀有に柴又に上野。「ストラトス4」で美少女パイロットたちが集う下地島。アニメは不明ながらマンガでは確実にモデルが分かる「ジオブリーダーズ 魍魎遊撃隊」の舞台となっている綾金こと名古屋市。好きな人にとっては確実に聖地となり得るそれらの場所に次の機会があったなら、著者には行って写真を撮って今はどうなっているのかを、是非にもルポしてもらいたい。旅費? 最初の本の印税があるでしょう? 聖地巡りで得たお金、聖地巡りで使ってこそのアニメファン、マンガファンって奴さ。


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