たたかう! ニュースキャスター3
嵐を呼ぶ整形魔人

 恋は盲目。恋する人の目は恋する者しか映さない。それ以外は? 茄子か南瓜か蕪かはともかく、その目にはただの野菜にしか映らない。たとえ美人でも。本当に会いたかった女性でも。

 夏見正隆の「たたかう! ニュースキャスター」シリーズ第1巻。ニュースキャスターの桜庭よしみは俳優の橋本克則と内緒で行った苗場のスキー場で遭難しかかり、ひとり山を降りて助けを呼びに行こうとして崖から落ちて死にかける。その時、イグニスという宇宙人と融合されてしまったよしみは、スーパーガールとなって克則を助ける。その姿を夢うつつに見た克則は、スーパーガールを命の恩人と感謝し、その上恋までしてしまう。

 つまりそれって恋人のよしみに恋をし直したってこと? そうじゃない。薄れる意識の中に見た、輝くコスチュームの女性が、克則の目に”スーパーガール”として深く刻み込まれた。やがて耳に届いた”スーパーガール”活躍の報に、克則は自分の中で”スーパーガール”のイメージを膨らませ、頭の中で理想の顔まで描きあげていたのだった。

 そんな克則が知人に引っ張られて行った宴席で見かけたのが栗原秋美という女性。NHKに入って報道の現場で働く記者。希望に燃えて転職したその場所で、けれども秋美はままならない日常に膿んでいた。客観報道という名目の事なかれ報道。中立を騙った責任逃れ。ギャップに苦しみながらも掴んだチャンスを踏み台に、ニューヨークでキャスターになるんだという夢に向かって我慢を続けていた。

 そんなストイックな美貌を一目見て、克則は彼女こそが”スーパーガール”だと確信する。そして恋心をうち明ける。隣りには克則のかつての恋人・桜庭よしみ。訳あって秋美と知り合い、友達になったよしみがいた。”スーパーガール”への恋を最優先に、克則はよしみを友達としか認識しないようになっていた。けれどもよしみは、克則への恋心を失ってはいなかった。その目の前で、本当は”スーパーガール”の自分を見ないで、秋美だけを見た克則。自分を差し置いて、秋美を”スーパーガール”と読んだ克則。よしみの心が深く沈んだ。

 それだけならまだ良かった。決して明かしたくなかった克則の前に、よしみは”スーパーガール”の姿で立つ羽目となってしまった。会いたかった”スーパーガール”。命の恩人”スーパーガール”。そしてその顔は桜庭よしみ。かつての恋人。それなのに克則は気づかなかった。”スーパーガール”とも。桜庭よしみとも。あまつさえこう言い放った。「アシスタントのバニーガールか」。

 恋は盲目。頭の中で膨らませていた”スーパーガール”の顔かたち。そしてそれに当てはまった秋美こそが”スーパーガール”だと信じる克則の目に、桜庭よしみは映らない。本当の”スーパーガール”も見えない。哀れわれらが”スーパーガール”。そして桜庭よしみ。。落ち込み悲しみ嘆く彼女だったが、「たたかう! ニュースキャスター3 嵐を呼ぶ整形魔人」(朝日ソノラマ、1000円)ではそれでもひとつ、自分の苦しみを知る友人を得たことが、心の支えとなって明日への希望を彼女にもたらす。

 次巻。深い落胆を覚えた一方で、新しい仲間、新しい友人を得たよしみが、それまでのように仕事の途中で事件を聞きつけ、現場を放り出して駆け付けては事件を密かに解決して来た報われない日々を脱却して、正真正銘の”スーパーガール”として名を上げるのか。理解されないまでも心の拠り所を得て、ひとつ大人となって正義に燃える姿が描かれるのか。それとも相変わらず弱い心を慰めながら、”スーパーガール”としての役目を誰も見えない場所でこなしつづけては、上司からも、恋人からも認められない哀しみに沈むのか。ますます楽しみになって来た。

 「豊田商事」の事件をモデルに、目の前で人が惨殺されようとしている場面で犯行に及ぼうとしている男たちを止めようとせず、写真を撮り続けたりリポートを続けようとしたカメラマンや記者たちのエピソードあり。政治の思惑に振り回されつつ、自らの将来も計算に入れつつ、国民の敵を買って出る財務省の女性キャリアのエピソードあり。度し難く無能なマスコミと、どうしようもなく無様な官僚の姿を話に盛り込み作者は指弾する。論旨は明快。且つ正論。よくぞ言ってくれた、書いてくれたと痛快無比な気分にさせられる。

 美貌を鼻に掛け、美しければ誰でも言うことを聞かせられる、誰もがちやほやしてくれると思っていた美女たちが、現れた整形魔人によって普通の顔に整形されてしまった途端、テレビ局のプロデューサーからも行きつけの飲食店からも、誰からも相手にされなくなってしまうエピソードは顔にだけこだわる女たち、男たちの強欲な様を描き出す。思い描いた”スーパーガール”しか目に入らず、本当の恩人を見過ごしてしまう克則の盲目ぶりと表裏一体の、表面しか見ない人間の愚かさを教えられる。

 その整形魔人。いろいろと出没して名バイプレーヤーぶりを見せてくれはするものの、本筋として物語に絡んではその思想、そして高い技術の理由を見せてくれないまま物語から退場してしまう。どこへ行ってしまったのか。狙いはいったい何なのか。類い希なる資質を備えたアンチ・ヒーローとしての高い存在感を持つ整形魔人を、いずれ再び登場させては美女に相手にされない男たち、美女にすべてを奪われてしまった女たちの怨念を一身に背負わせ、その恨みを整形によって晴らす姿に心を移入させ、憤りを和らげてくれると期待したい。


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