サムライリーガーズ 1

 スポーツをどこまでもリアルに活写するフィクションが、割と流行っていたりするようで、野球だったらひぐちアサの「おおきく振りかぶって」が、1球1打の細かい心理描写を描くことで、選手たちがただ打席に立ち、あるいはマウンドに立ってボールを打ったり、投げたりしているんじゃないと教えて、読者に新鮮な驚きをもたらしている。

 あるいは三島衛里子の「高校球児ザワさん」のように、女子ながらも野球部に所属している選手をめぐる日常が、これもリアルに描かれ野球や女子の生態への興味を誘う。サッカーだったらツジトモ作画、綱本将也原案の「GIANT KILLING」に、弱小チームを舞台に監督の戦術、選手の技術とやる気で上位チームを撃破していく様が登場。圧倒的に巧くて強いチームをただ応援するのとは違った、弱小チームならではの勝利を求める戦い方から、サッカーを見る目を養える。

 今現在行われているプレーが、どういいった意図とそして技術の上に成り立っているかを知らせるだけで、人はスポーツをちゃんと楽しめるようになってきた。どん底からはい上がってきた人間が、怨みや嫉みを力に変えてはい上がっていくといったドラマはそこには必要ない。妙な脚色はなくても、スポーツはスポーツとしてそれぞれに奥深いものがあるのだということが、世間に広まってきたひとつの現れとして、そうしたリアル系の漫画が人気になっているのだろう。

 だがしかし。リアル系の漫画ばかりが人気になると、やっぱり思えてくるのが、昔ながらの超人たちによる破天荒な戦いぶりだ。遠崎史朗原作で、中島徳博作画の「アストロ球団」が見せてくれた、とてつもない魔球を投手が投げ、それをとてつもない苦労の上に撃ち返すドラマから放たれる熱さは、リアル系からはなかなか感じることがかなわない。車田正美の「リングにかけろ」で炸裂する必殺パンチの応酬も、それらが繰り出される瞬間へ、どう進んでいくかを心待ちにする楽しみがあった。

 水島新治の「ドカベン」も、山田太郎の豪打や里中智の好投だけでは、あそこまでの人気は出なかった。常人を外れた岩鬼正美の悪球打ちがあり、常識を越えた殿馬一人の秘打があったればこそのあの人気。少しばかり人間離れした技が、現実を超えたところにある可能性への想像力を、読む者にもたらし興奮をさそった。

 竹山裕右の「サムライリーガーズ 第1巻」(少年画報社、562円)も、そんな可能性を超えたところにある迫力というものを、存分に味わわせてくれるスポーツ漫画だ。テーマは野球。とはいえ、舞台はアメリカのメジャーリーグならぬメジャーボールで、そこでは野球に似ていながらも、野球とは違ったスポーツが繰り広げられていた。

 王斬源路郎という男がいて、メジャーボールで日本人だけのチームに所属して、快投快打で世間を驚かせていた。けれども、メジャーボールでも屈指の強打者、ヴァルディス・カーンが150キロもの重さを持ったバットではじき返したボールを、源路郎は真正面から受け止めて、マウンドからセンターのフェンスへと叩きつけられ、そのまま絶命してしまた。以後、チームは低迷し、解散の瀬戸際まで追いつめられていた、その時。海を越えて源路郎の弟の王斬一路太がやってきて、チームに参加したいと女性オーナーに直談判する。

 その剛腕剛打ぶりを見て、オーナーはすぐさま入団を決める。優勝と引き替えに絶命した源路郎の強烈さを記憶しているチームメイトは、最初は一路太がまだまだ及んでいないと言って、彼の存在を認めようとはしなかった。本人は本人で、常に先を行っていた兄と比べられることへの反発を抱いていた。それでも、勝たなければチームが終わってしまう状況に、チームは一路太を受け入れ、一路太も持ち前の実力で急場をしのぎ、解散の瀬戸際をはねかえす。

 その後も、鞭でボールを絡め取っては、スタンドへと運ぶバッターを投手として打ち取り、体から癒しの空気を発し、色気も見せて打者を骨抜きにしたり、あるいは全身からプラズマを発生させて、ボールを6個操っているように見せかける、グラマラスなシスターの投手を打者として打ったりして、チームを勝利へと導いていく。そこに立ちふさがったのが、兄の敵ともいえるヴァルデス・カーン。果たして勝負の行方は。そして一路太の運命は。

 そこまでが描かれる第1巻に続いて、描かれているだろう第2巻。おそらくはヴァルデス・カーンとの因縁の戦いが繰り広げられ、また別の強敵との戦いが待ち受けているに違いない。あれだけの選手だった兄を絶命に追い込んだ、ヴァルデス・カーンの凄みがこのままで終わるはずもなく、メジャーボールの本場で日本人たちが活躍することを、良しと思わない勢力が送り込んでくる強敵との戦いも、待ち受けていることだろう。

 そこでは超常的な力を持った者たちが、超常的な力を駆使して闘う姿が繰り広げられることになるだろう。だからといって「アストロ球団」のような血で血を洗うような陰惨さへとは向かわず、どこか陽気で色気もたっぷりで、それでいてしっかりと熱さを感じさせるドラマが描かれるはず。楽しみながら見ていきたい。勝負の行方を。そして一路太がたどり着く地平を。


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