サクラ×サク 01 我が愛しき運命の鏖殺公女

 強い。強すぎる。けれどもその強さに隠された忍耐の凄まじさを知ると、単に強くて良いのかとも思えてくる。とはいえその強さにすがるしかない状況なのだとしたら、人は忍耐を言葉では慰撫しつつ、それでも犠牲を厭わないで、忍耐の果てにある強さをのみ、前面へと押し立てることになるのだろうか。

 十文字青による新シリーズ「サクラ×サク01 我が愛しき運命の鏖殺公女」(ダッシュエックス文庫、600円)は、そんな懊悩と詰問を持った物語だ。性格なのか体質なのか、ひとりの友だちも出来ないまま、他にすることもなく、ひたすら鍛錬と勉強を極めたことで優秀な成績をおさめ、飛び級までして学校を卒業し、准士官として登用されたハイジ・バランという少年が訪れたのは、イエルヴァラという最前線の砦だった。

 そこでハイジは、砦の上で気を失いかけて落っこちた司令官のピエール・アルトレッド中将をそうとは知らず助けてしまい、さらに砦の太守をしているサクラという名の皇女の侍官になるよう命じられる。さすがは成績優秀者、なのかそれとも違うのか。分からないまま赴いた太守の部屋で、ハイジはたとえ成績は優秀で、それ以上に不全なコミュニケーション能力を大いにタメされる。

 太守として現れたのは、ハイジが涙を流して感動するほどの絶世の美少女だった。そんなサクラが部屋でしていたのはほとんど下着という格好で、なおかつ散らかし放題の汚部屋に埋もれていたからハイジは驚き慌てた。おまけにサクラはハイジのことを暗殺者かと言い、いつ襲ってくるんだとも言って私を殺したいならいつでも来い、ただし無駄だと冷めた声で告げて部屋に引きこもる。

 そこにやってきた侍女というルルチナにとりあえず指示を受け、同じく侍女でこちらは胸が巨大なギチコという女性とも同僚という形になって、ハイジはサクラに仕えることになる。そんな中、ルルチナが日常茶飯事と言うサクラの脱走があり、探しに出た街でハイジは見た。サクラという少女の強さを。そして裏にある悲しみを。

 サクラはとにかく強かった。剣術ならハイジも学校で極めていたものの、そんな剣術がお遊戯に見えてしまうくらいの強さを誇って、ハイジがいる砦に偵察に来ていた帝国の尖兵を片づけてしまう。それは、相手がどんな攻撃を繰り出しても、受け止めも受け流しもしないで全身で引き受けるという捨て身の戦法だった。それなのにサクラには傷ひとつつかず、逆に敵が倒されている。

 魔性(ブラッド)と呼ばれる異能の力を身につけているサクラ。その力の秘密を知ってハイジは驚き、そして戸惑う。サクラがあそこまで投げやりになった理由。そしてたった1人で敵に向かっていく理由。誰かを嫌っているよりも、誰かを慈しんでいるからこそのその態度だと知って、ハイジは自ら剣を取り、怖さにも負けずに敵へと向かい、なぜ来たのかと憤るサクラを諭して、ルルチナ、ギチコとともに戦おうとする。

 最強であることが最善だとは限らない。その力によって疎まれることもあれば、持ち上げられることもある。いずれにしても、孤独がそこに生まれて最強の存在を寂しさに苛む。けれども、最強者といえども心を持った人ならば、求めるのはやはりふれあいであり信頼だ。サクラの独善が彼女をひとりぼっちにしていたのだとしたら、それを改められるのは、ずっとひとりぼっちだったハイジしかいなかった。だから招かれたのかもしれない。砦へと。侍官へと。

 だとしたら誰が招いたのか。そんなあたりの作為も気になるところ。病弱なだけに見えて、案外に司令官のアルトレッド中将は、策士なのかもしれない。そうでないのかもしれないけれど。ルルチナの過去やギチコの謎など、キャラの生い立ちや思いを考える楽しみもあり、何よりサクラが仲間を得てそれを失う覚悟ものみ込んで戦っていった果てに来る世界の姿への興味も浮かぶ。どこへと向かうか。どんな世界が訪れるのか。それを知るために読んでいこう。


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