斉藤アリスは有害です。
〜世界行方少女〜

 椎名高志の漫画「絶対可憐チルドレン」からスピンオフして、超能力者として政府権力側と対立する兵部京介を主人公にして描いたテレビアニメーション「UNLIMITED 兵部京介」のエピソード。兵部が組織するP.A.N.D.R.A(パンドラ)と行動を共にしている少女が、迷子になった少年の父母を超能力で探してあげた時に、親たちや周囲にいた大人たちが見せたのは、御礼でもなく羨望でもなく激しい敵意で、それを感じて怯えた少女は超能力を暴走させて、遊園地を大混乱に陥れる。

 使えば便利な超能力を、けれども世界はとてつもなく憎み、疎んでいる。それは超能力を持った存在が起こした事件であり、犯罪といったもので受けた被害の記憶を大勢の人が持っている現れでもあるし、自分にはない便利な力を持っている者への嫉みが、一般の人に溜まっている現れでもある。

 そうした超能力による犯罪から守る正義の味方として、薫や紫穂や葵らチルドレンたちが所属するB.A.B.E.L(バベル)という超能力者を集めた組織もあるけれど、そこがいくら頑張ったところで、すべての超能力者による犯罪を抑えられる訳ではないし、人にはない力を持っていることにも代わりはない。

 自分たちを守ってくれる正義の味方というよりは、犯罪者たちと同じ穴の狢が内輪でけじめをつけあっているだけで、一般人はそれに巻きこまれている可愛そうな人という、そんな意識が醸成されてしまっているのかもしれない。

 これでは兵部京介も、P.A.N.D.R.Aのメンバーも怒って当然だし、期待より不安、歓喜より恐怖を浴びながらチルドレンとして戦うことに疲れ倦んだ薫が、P.A.N.D.R.Aへと寝返って予言のとおりにクイーンとなって、政府や権力を相手した戦線に舞い戻ってくる可能性も否定しきれない。

 正義のために力を振るう超能力者がいることを、政府がもっと宣伝すれば世の中の目も変わるのかもしれないけれど、その政府が超能力を武器や兵器としてのみ、使おうとしていたからこそ、兵部のような存在も生まれ使われ、怒り暴れて今に至った。

 超能力者は人とちょっと違うだけの存在。そんな意識が人間に育まれるなら、宗教とか、人種とか部族が違うってことでこれだけの戦いは起こらない。ましてや中維の「斉藤アリスは有害です。 〜世界の行方を握る少女〜」(電撃文庫)に出てくる斉藤アリスは、その周辺で不幸が乱発される異能の力を、際限なしに振るっている。疎まれて当然と言われても仕方がない。

 身の回りに災厄ばかり起こり、遂に世界で唯一にして始めて「有害者」認定されたアリス。幼い頃から不幸は現れ始め、やがてアリス自身彼女に原因があるらしいと分かって、テレビ局も取材にやって来た。それでテレビ局が潰れるような事態が起こり、半端ではない力だと判明して、誰もが慌て、かといって殺害する訳にもいかないから、隔離されて生かされた。

 万全の体制を整えることで、学校くらいには通って良いとのお達しが出て、アリスは外に出るようになる。もっとも、髑髏のマークが描かれたケブラー繊維の傘をさしたアリスが出歩く際には、街に警報が鳴り、誰もが身を隠して通り過ぎるのを待つ。下校の際も同様で、警報が鳴るまでアリスは学校に留まったまま、家に帰ることができない。

 自分が望むように振る舞えば起こる災厄。両親だってそれで亡くした。だからアリスも決して無理して動こうとはしない。それでも周囲はアリスを恐れ、敵意を示す。過去にしてしまったことがもたらす感情は、どうやっても拭いようがなかった。

 そんなアリスに興味を持った少年が1人。学校で週替わりに付くことになった「アリス当番」になった山野上秀章は、これを機会とアリスに近づき、災厄など迷信だ偶然だと押し通してコミュニケーションを深めようとする。

 珍しいものを観察したいという好奇心が先に立っただけなのかもしれない。すぐに災厄に見舞われ退散するかとも思われていた。ところが、どういう訳か少年にはそれほど災厄が向かわない。なぜなのか。そんな辺りから、アリスの振るう力の方向性が見えてきて、アリス自身の臆病で優しく寂しい気持ちも分かってきて、アリスを癒そうとするみんなの頑張りへと話が向かっていく。

 外からの敵意に繊細過ぎる少女のこぼれる力を、優しさで癒す物語、ということになるのだろうか。少しでも適意を見せた者たちへと、地球の裏側まで迫るアリスの災厄は凄まじいけど、そこから憎しみを連鎖させて何になる? 持って生まれた異能を受け入れ、包み込む優しさが少女を救い、世界を救うのだと知る物語。それが「斉藤アリスは有害です。 〜世界の行方を握る少女〜」だ。

 キャラクターでは学校にいて、様々な側面を見せる教師のラヴちゃんもユニークだけれど、同級生で委員長の長谷川もなかなかにユニーク。彼女が実は所属していたオカルティックな集団が、アリスの本質を知ってそれを暴き、解放させようとしているファンタスティックな展開に向かうのかと思ったら、意外で間抜けな方向へと転がっていく。思い込みは恐ろしく、そして面白い。

 ただ、そうなるとアリスの力はどこから生まれ、どう及び、それでいてどう抑えられるようになったのかが気になってくる。そんな辺りに迫る続編はあるのか。敵意に優しさが勝つ物語として決着を見て満足すべきなのか。興味を持って見ていこう。


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