神聖のレジスタ1 リリーアの子どもたち

 勇気だけでは世界は変えられない。意志だけでも同じ。力。それも圧倒的な力がってはじめて人は世界に立ち向かえる。力が無ければどんな世界であっても従い、はいつくばって生きていくしかない。嫌なら道は2つ。死して逃げるか、力を得るかだ。

 北山大詩の「神聖のレジスタ1 リリーアの子どもたち」(富士見ファンタジア文庫、580円)は、力無き者が意志を抱き、力を得て、歪んだ世界に立ち向かっていく物語だ。汐月誠人の両親は、誠人がまだ幼い頃、乗り込んだバスの爆発に巻き込まれて誠人の目の前で死亡した。もっとも事故の衝撃からか、誠人は事故のことも、傍らにいた妹のことも記憶から消し去ってしまっていた。

 長じてオルフェイス神学校の高等部に進んだ誠人は、神が見えるようになる覚醒を促す教育では名門の学校にあって、未だ覚醒できない中で焦りを感じていた。この世界。1000年以上も前に起こったオルト教という宗教によって全世界が覆われていて、多くの人々が神であるオールト様を視界にいただき、導きを受けて生きていた。

 なかには覚醒できない人たちもいて、人種や性別とは関係なしに、未覚醒者として虐げられ、社会の下辺で暮らしていた。反対に覚醒の果てに異能の力を発動させる子供たちも現れるようになって、奇蹟を見せる“リリーア・チルドレン”として崇められ、畏れらていた。

 この世界の日本は、「第二次異端大戦」なる戦いに敗北して、国連が直轄する南関東、米国が治める南関東以外の本州、ロシアが統治する北海道および樺太とそして、中国が支配下に置く四国・九州・沖縄に分割されていた。誠人が暮らしているのは南関東。寮でも同室の同級生で、神学校でも最優等と名高いレンとつるんで学園生活を送りながら、神様が降りて来る時を待っていた。そこに事件が起こる。

 街で発生したテロ事件の現場へと駆けつけた誠人たちは、出動して来た対テロ組織の「LCAT」が作業していた最中、何者かによって襲われ「LCAT」の幾人かが、霧のような姿になって消えてしまう様子を目撃する。リリーア・チルドレンのように顕現しているどころか、オールト様に覚醒すらしていないにも関わらず、襲いかかる危機を察知して、危険だから逃げろと叫んだ誠人は、テロの現場で昏倒してしまう。

 寮で目覚めた誠人は、朝方に寮に届けられていた謎の小包が、再配達される途中で消えてしまい、いったいどこへいったのかと訝って、昼間にテロ現場で見かけた少女で、誠人やレンが通う学校に転校して来たらしい黒梅という名の少女も伴って、調査に赴く。その先で、やはりホームレスたちが霧のように消えてしまう場面に遭遇する。

 誠人とレンは、ちょうどその場に居合わせた「LCAT」の女性指揮官、エリーゼ・恵理世・ベルリオーズともども事件に巻き込まれ、恵理世を疎んじる同僚の画策にはまってしまい、テロ事件の首謀者扱いされて追われる身となり、捕らえられてしまう。

 いったい何が起こっているのか。そして誰が動いているのか。謎を解く鍵は、記憶を失っている誠人の過去にあった。両親が遺した何かが及ぼす影響力が発動するなかで、誠人は失った記憶を取り戻し、強大な力を顕しそして、彼と過去に大きなつながりを持っていたらしい黒梅と共に敵に立ち向かう。

 レンとの哀しい別れがあって、未覚醒故に差別され貧乏暮らしをしながらレンを神学校に通わせていた両親の被るだろうダメージも含め、切ない気分に浸らせられる。もっともクライマックスでは、レンとの“再会”めいた体験があり、そうした事態が起こり得るオルト教の謎と、そしていよいよ始まる強大な敵との本格的なバトルに向かう期待が心を踊らせる。

 未覚醒者を虐げ、両親を葬り、リリーア・チルドレンすら疎んじて世界を安寧の暗黒で覆う存在に挑む誠人。教会が何にも勝る支配者的な存在となっている世界だけに、国連だって教会の影響から独立しているとは言えないにも関わらず、傘下の組織に属していったい何が出来るのか。強大過ぎる敵だけに、顕現した力を支える勇気の強さも求められそう。

 国連のみならず米国にロシアに中国といった大国の思惑が入り交じり、テロ組織まで出て来ては幾重にも重なり合った混乱状態の中で繰り広げられる、諜報戦や銃撃戦のスリルも楽しめそう。“神殺し”という壮大な目的を果たそうと、苦闘し苦悩しながら戦い抜いた先に現れる、新しい世界の姿がどんなものになのか、どうなって欲しいのかを考えながら続くだろう展開を見守っていこう。


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