映画大好きポンポさん

 これは夢を見続ける者たちの物語だ。そして夢を叶える道を見せてくれる物語だ。

 人間プラモという人によって、画像投稿サイトのpixivに発表された漫画「映画大好きポンポさん」が、140ページほどの分量があるにも関わらず、読み始めから読み終わりまで息をつかせず一気に読ませて楽しませた。そしてちょっぴり泣かせもした。大評判になった。至極当然の流れ。

 物語はこんな感じ。「道」のディノ・デ・ラウレンティスを父親に持つラファエラ・デ・ラウレンティスみたいに、祖父が偉大な映画プロデューサーだったという孫娘の映画プロデューサーがいた。名をポンポさんといって、面白い映画を作ることに熱心で、美人俳優を使ってB級スペクタクルめいたものをいっぱい作って、それなりに当てていたりする。

 祖父のような大作文芸映画が嫌いという訳ではないけれど、2時間を超えるような長い映画は苦手で、90分がベストというポリシーの持ち主。何より面白い映画が作りたいからといった姿勢から、そういった作品が得意なコルベット監督といつも2人で悪巧みしている。その傍らにいたのが、映画だけが人生といったジーンという青年で、いつもポンポさんに振り回されていた。

 ほかに取り柄がなく、映画だけが大好きで熱心に観続けて来たけれど、だからといって自分で映画を作った経験はなく、作れるだけの自信もない。そんなジーンの才能を見いだしたのがポンポさん。コルベット監督の映画の予告編を作らせて、短いけれどもそれゆえに才能が試される映像で見事に期待に応えたジーンを抜擢し、自分が脚本を書いた1本の映画を撮らせることにする。

 それが「マイスター」という映画。主演は祖父の伝手で引退すらささやかれていた大物俳優のマーティン・ブラドッグを読んできた。そしてヒロインにはジーンと同様に新人の女優を抜擢した。それがナタリー・ウッドワードという少女。女優になりたくて田舎から出てきたものの、すぐに役は得られず、交通整理のアルバイトをしながらオーディションを受け続けてい。

 ポンポさんが行ったオーディションにも参加していて、ちょっとだけ「ピン!」と関心を持たれながらもその場では地味だから失格となたナタリーを、ポンポさんは自分の映画のヒロインにピッタリだと思い出し、コルベット監督の映画でモンスターに襲われ続けている女優のミスティアに預けて芝居の勉強をさせる。事務所が売り込んでくる人気が取り柄のタレントではなく、撮りたい映画にピッタリの才能を見つけ、育てていくスタンスがどうにも羨ましい。そして美しい。

 そうやって取られた映画の結果は……。それは読んでのお楽しみとして、未だ世に出ていない才能が、優れたプロデューサーの炯眼によって集められては大きな仕事を成し遂げるストーリーの、ポジティブさにあふれた展開が読んでいて心地良い。巧くいき過ぎといった声も浴びそうだけれど、決して誰もが偶然に起用された訳ではない。自分に怠惰な人間などおらず、ジーンなら映画に関する知識なら誰にも負けないつもりでメモを取り続け、ナタリーは女優になる夢を諦めないでニャリウッドなる映画の都に居続けた。だから夢を叶えられた。

 そんな過程において、すでに幸せを感じている人にクリエーティブな仕事なんでてきない、自分に満足していないからこそ何か作りたいといった思いが出てくるのだといった指摘があり、あるいは毎日毎日映画を見続けて来たのだから、映画を作る準備なんてとっくにできているはずだといった宣言があって、もの作りに悩んでいたり迷っている人たちにとってある種の警句となっている。

 それらを読んで誰もが思うだろう。自分に才能がないと嘆くより、ある才能を信じて進もうと。面白い何かを作るためには、誰か1人にでも喜んでもらいたいと思おうと。そんなメッセージを活かして明日から自分の道を歩めるか。歩かねばならないのならまずは向かえ、物書きならば原稿用紙に、映像作家ならカメラを手にして街に、人に。

 作者自身がそうやって前向きに取り組んだ結果が、ネット上で人気作品となっただけでなく、単行本の「映画大好きポンポさん」(KADOKAWA、800円)として刊行され、ふたたび注目を集めたことなのかもしれない。動き出さなければ何も変わらないのだと改めて知ろう。

 すごいのはさらに夢の続きがあることで、まずはアニメーション化の企画が進んでいるという。誰が監督を務めるか。ポンポさんの声を誰が演じるか。楽しみだしこれがヒットしたらな次は実写映画化といった夢も浮かぶ。配役はポンポさんが広瀬すずでナタリーが土屋太鳳でジーンが山崎賢人でミスティアが吉高由里子でペーターゼンさんが仲代達矢でマーティン・ブラドッグが渡辺謙でコルベット監督が樋口真嗣監督。夢のようだが願えばかなうかもししれない。

 いっそハリウッド版が作られてロバート・デ・ニーロがマーティン・ブラドッグを演じると? それも遠い夢だけれどかなわない夢がないのなら、あるいは、いつか。


積ん読パラダイスへ戻る