アウトロー×レイヴン

 スペースオペラファンとそうでない人へ。長月渋一の「アウトロー×レイヴン」(電撃文庫、630円)を今すぐ読もう。

 1977年に全米で公開された映画「スター・ウォーズ」が、エドモンド・ハミルトンやE・E・スミスらが小説として書き、一時の熱狂を誘ったスペースオペラというジャンルの面白さを映像として再認識させた。その最新作となる「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」が全世界で公開された、2015年12月という年月に刊行された「アウトロー×レイヴン」を読むことで、日本におけるライトノベルという分野での、スペースオペラのひとつの到達点をうかがい知れるはずだから。

 地球から訳あって逃れてきたジン・カツヒラとシイカ・カツヒラという兄と妹。兄のジンは“伝説”と謳われる賞金稼ぎで、スーツ姿が良く似合うヴォーガという獣人の男の下で賞金稼ぎの修行をしている。その血筋に発症しやすい難病に罹っているシイカの治療費を稼ぎつつ、シイカが発明する光の剣や便利な道具を手に持ち、身に着けてヴォーガの下で仕事に励むものの、半人前と言われると激高し、我を失って暴走してしまう性格からミスを繰り返す。

 ヴォーガに一人前と認めてもらえれば、ヴォーガのようにジャケットの着用を許されるけれど、そうなるまでの道はなかなか険しそう。その日も、リィズ・ソングマールという名の惑星クワントールの第三皇女が従えるSPになりすまし、救国の英雄と讃えられていた将軍に化けていた帝国のスパイを捕まえようと画策したものの、相手から半人前だと言われて激高し、しくじりかけてヴォーガに尻ぬぐいをさせてしまう。

 自分が悪かったと反省して、焦りを捨てて落ち着くことができれば一人前に近づけるのだけれど、それができないからこその半人前暮らし。なおかつ少しでも早く一人前になりたい、一旗揚げてヴォーガに認められたいという焦りを募らせたジンは、舞い込んできた危険な仕事に単身で突っ込んでいってしまう。

 先の一件で見知ったリィズは、皇女であると同時に優秀な研究者でもあって、その知見で大学がとてつもなく危険な兵器を作っていると知り、廃棄させようと兵器を持って逃亡する。その一件が、外部的にはリィズが何者かによって誘拐されたという形で伝わってきて、これを解決すればヴォーガも認めてくれるのではないか、もらえる賞金があれば妹の治療費も稼げるのではないかと思い、ジンは仕事を受けようとヴォーガに言う。

 ところがヴォーガは乗り気ではなく、絶対に関わるなとジンに言明する。それを素直に聞けるジンではなく、ひとりで事件の渦中へと飛び込み、リィズから何が起こっているかを聞いた先、自分がヴォーガに助けられながらシイカとともに地球を脱出する原因を作った仇敵に出会う。その仇敵の狙いは、リィズが持って逃げた「ヴァーミリオン」という名の、1光年の範囲を吹き飛ばし、そこに存在する生命をこね混ぜて新たな惑星の材料にしてしまうという、とてつもなく恐ろしい爆弾だった。

 かつて相対しながらもまるでかなわず、家族の犠牲とヴォーガの働きでどうにか逃げ出すことができた仇敵、ヴォーガによって捕らえられ、宇宙を永遠にさまよう流刑に処せられたはずの仇敵とのとの再会に、ジンの怒りは頂点を超える。そのことを感づいて関わらせようとしなかったヴォーガの諫めも届かず、またしても半人前ぶりをさらけ出し、自分だけでなく周囲にも迷惑をかけまくるジンの言動がどうにも見苦しい。そして鬱陶しい。

 恩人であるヴォーガをも危険にさらすジンの言動に、どうしてもうちょっと冷静になれないんだ、自分をわきまえないんだといった気持ちも浮かんでくる。ただ、そうやって臆していたら宇宙はいったいどうなっただろう。とてつもない悲劇に見舞われたのではないか。そう考えた時、ひとつの悲劇を乗り越えながらも、それを経験することで自分を知り、他人を慈しむ気持ちを知って、半人前から少しだけ前へと進んだジンにちょっぴりの共感も浮かぶ。

 どこまでも強くそして紳士でさらに優しさも持った賞金稼ぎヴォーガの格好良さに惹かれもするけど、そんな彼に呑まれ真似していても、ジンはヴォーガにはなれはしない。半端でも半人前でもジンはジン。拙く幼いところもあり過ぎるけれど、ヴォーガにはない情熱が最後は宇宙を魔の手から救ったの。だから良し。そう思うしかないし、そう思ってこれからの人生を歩み続けるしかない。それが成長の過程で犠牲にしたことへの贖罪であり、一人前になったことへの責任なのだから。

 冒頭でリィズを助けようとして捕らえられたブリギットという女性アンドロイドや、彼女の同族でアンドロイド生命体として存在するグレイロイドたちの再会が、ピンチにあったジンを救ったり、リィズと出会うきっかけになった帝国のスパイが化けていた将軍の影響が、ジンの脱出に役立ったりと、各所で散りばめられていた伏線がいきてくる展開など、よく考えられて構成されている。そこがひとつ、素晴らしい。

 何より挫折と苦闘のドラマがあり、ジンが繰り出す武器や四次元ポケットのようなジャケットといったガジェットの面白さがあり、宇宙規模の超兵器という美味しい設定もあって壮大にして壮麗な物語を楽しめる。そのスケール感といい、青臭いけれも前向きな熱血ヒーローの主人公といい、1977年という「スター・ウォーズ」が全米で公開された年に刊行され、「スター・ウォーズ」人気の中で日本のスペースオペラとして存在感を放った高千穂遙の「クラッシャージョウ」シリーズに似た雰囲気をまとっている。それくらいの傑作だ。

 青春に迷い、自分に不甲斐なさを感じながら突っ張って、それでも壁にぶつかって苛立っている若い人には、読んでジンへの同族意識に背を向けるか共感を覚えて共に歩むか、いずれにしても良い刺激を与えそう。だから改めて言う。長月渋位一の「アウトロー×レイヴン」を今すぐ読もう。


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