オレのリベンジがヒロインを全員倒す!

 ヒーローは地球を隕石から救ってこその存在で、宮澤伊織の「ウは宇宙ヤバいのウ! 〜セカイが滅ぶ5秒前〜」でもかつてヒーローとして活躍した主人公の少年が、訳あって自分を見失いながらも仲間の助けを借りて過去を取り戻し、紆余曲折の果てに落下してくる隕石から見事、地球を救ってみせる。1度は地球にぶつけてしまったけれど。

 八薙玉造の「オレのリベンジがヒロインを全員倒す!」(集英社スーパーダッシュ文庫、580円)でもヒーローは、やっぱり隕石から地球を救ってみせる。こちらは1度でしっかりと。少年少女に突如現れた謎の能力。【オリジン】と呼ばれるそうした力の中でも、最強を誇っていたのが【星】のオリジンという、それこそ地球のすべてを司るような力を持った伊原迅という少年だった。

 若くして最強の力を得ながらも誇らず、それが使命だとばかりに仲間たちと集い、世界に害をなす存在を退けていた迅は4年前、地球に隕石を落として滅ぼそうとした【破滅】のオリジンを持った少女を退け、彼女の命も救って地上へと連れ帰る。そこで力を使い果たし、弱っていたところを襲撃され、気を失ってた迅が目が覚めたら、能力が消えていた。

 誰かに奪われてしまったらしい。それはいったい。疑わしいのは迅の帰投を見守っていた仲間たち。でもどうして。訳が分からないまま何の力もない普通の少年になってしまった迅は、かつての毅然としたヒーローとしての姿をまるで省みず、半ば復讐の鬼と化して、かつての仲間たちの手がかりを得ようと、腐った頭と濁った目であれやこれやと策を巡らせる。

 この転落ぶりがなかなかの見物。行為にも言葉にも卑怯者の色を濃くにじませては、ようやく掴んだ手がかりを逃さず、絡め取って目的へとにじり寄ろうとする。オリジンズばかりを集めた学園があると聞いては、はるばる長野まで出むいて追い返され、そして街で発生するオリジンを使った犯罪に、から派遣されてくる者たちがいると聞けば、出かけていって待ち伏せをする。

 そこに現れたのが【風】のオリジンを使う品津樹。というか、本当の狙いはその樹をサポートしていた美少女のサラ・戒奈で、かつて迅の側にいて【従者】のオリジンを使い、迅の【星】のオリジンをコピーして戦っていたものの、隕石を止めた事件の後に他の仲間たちととともに姿を消していた。

 遂に見つけたと迅は、まず【風】のオリジンズの樹を万能の【星】のオリジンズだった頃に得たオリジンに関する知識を駆使して退け、その配下にいたサラを自分の配下に戻して服を脱がせ、嫌らしいことを平気でしては恥ずかしい場所にあった【星】のオリジンの印を自分の元に取り返そうとしたらちょっと違っていた。

 何だこの力は? どうやら一部分だけしかそこには入っていなかったらしい。では他は? やっぱり迅が倒れたときに側にいた、今は学園の会長として君臨している武速咲楽という少女が怪しいと考え、迅はサラや樹に先導させて学園へと潜り込む。サラに恥ずかしい格好をさせて、語尾にニャンと付けるように強要して。

 恐ろしいまでの転落ぶり。ただ、不思議と嫌らしさを感じないのは、幼なじみで事件があった後もずっと、迅のそばにいて彼を慕い続けた小山神那が、迅の言動にいちいちそれは卑怯だと突っ込んでくれることと、逆にそんな迅にかつて憧れ、同じ詰め襟姿でいる樹が、何を勘違いしてか迅の言動を流石だと褒め称えて、迅の居たたまれなさを倍加することが、良いバランスになっているからか。

 そして辿り着いた両義院学園でも、迅は持てるオリジンの知識を駆使して、どういう場面なら相手が何を企み、それをどうすれば防げるのかを実行して咲楽を追いつめ、学園を狙ったオリジンズによるテロも退ける。そこでは異能バトルにおける力の差異を知性でカバーし勝利する、一種の戦略ゲーム的な楽しみが味わえる。やり口は卑怯極まりないけれど。

 ひとつ片づいた先に見えてきたのはさらなる謎。どうして迅はあの場面で裏切られ、今その裏切った面々は何をしてるのか。単純い強大な迅の力に憧れただけなのか。他に何か思惑があったのか。次の巻があれば、そうした葛藤と探索のドラマを楽しめそう。そうなると、展開にシリアスさも増して、どこか偽悪的なだけでは迅も状況に立ち向かえなくなるだろう。そこでどんな本意を見せるのか。善意か、それとも功名心か。見守りたい。


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