大奥のサ
現代大奥女学院まるいちっ!

 容赦ない。

 日日日の新しいシリーズとなる「大奥のサクラ 現代大奥女学院まるいちっ! 」(角川スニーカー文庫、600円)は、関ヶ原で勝った豊臣家がその後400年、ずっと続いている現代が舞台という歴史改変SFストーリー。豊臣家の直系の跡継ぎながらも、妾腹として脇においやられがちな主人公の秀影は、訳あって身分を隠して隠密のような仕事をしていて、そこで先輩の女性隠密から、大奥という場所で起こっていることを、調べるようにと命じられる。

 大奥といっても、テレビの時代劇に出てくるような、将軍の後継ぎを生むために全国から美女に美少女たちが集められ、将軍の寵愛を得ようと美を競い合う絢爛たる場所とは少し違う。確かに美女美少女たちが揃っている。そして後継ぎを生むために競い合っているけれど、そこで必要となるのは美ではなく力。美女に美少女たちはそこで異能の力を振るい、戦い合って将軍の寵愛に近づこうとしていた。

 そう聞くと、格闘美少女物のライトノベルで、そこに跡継ぎの少年を狙って戦うハーレム設定が来るんだと、誰の頭にも浮かびそうだけれど、そんな普通のラブコメディに収まることを、あの日日日がするはずがない。何しろデビュー作の2冊の片方ではヒロインが既に死んでいて、もう片方ではヒロインがあっさりと死んでしまう。そんな作品を書いて世に出た日日日の新シリーズでもやはり、美女も美少女も決して幸せな境遇には置かれない。

 さすがは日日日。本当に容赦がない。

 大奥で繰り広げられているバトルは本気と書いてゲキマジと読ませる凄まじさ。戦って負ければ確実に死ぬか、再起不能へと追いやられる。秀影が出むいた先でまず目にした百足姫と熊女という少女同士の戦いでは、敗れた熊女が腹に埋め込まれた爆弾によって自縛させられ、百足姫もろとも殺されようとする。そこは持っている異能の力で身を守った百足姫だけれど、その後に戦うことになる敵との戦いでも相手は死に、すがってきた少女は口から尻へと太い槍で串刺しにされて粛正される。

 そもそもが百足姫自身が、かつてさくらという名の持ち主で、諸国を漫遊していた秀影と仲良くなったことを咎められ、親は拷問によって惨殺され、自身も四肢を切り取られて放り出されたほど。そこを大奥にいた治療の力を持った少女に助けられ、序列で上位の少女の庇護も受けてどうにか命だけはとりとめた。いまだに残る傷跡を引きずりながら、いつか誰もが幸せになれる世界を夢みて、地獄のような大奥で戦い続けている。もっとも敵は強大。その希望がかなえられるという保証はどこにもない。ましてや作者はあの日日日。容赦も慈悲もない結末が待っているかもしれない。

 黒姫という名の、秀影を慕う腹違いの妹の、兄を思うが故にめぐらせる計略の残酷な可愛らしさもまた凄いけれど、そんな黒姫すら手のひらで転がし、自在に操っていたりする本当の黒幕の正体と、その技の凄まじさといったら、あらゆるライトノベルに登場する女傑にも勝る強さであり、恐さであり、美しさ。そして黒幕がどうしてそこまで計略を廻らせるのか。そして後継ぎでありながら、今は身分を奪われている秀影がどういった立場に収まるのか。そこに百足姫ことさくらがどう絡んでいくのか。あまりの容赦の無さに目をつぶりたくなっても、そのまま捨てることは不可能だ。

 かつて地上で使われた時空をねじまげる爆弾の影響で、少女たちに異能が宿ってそして400年という設定も含め、SF的な雰囲気もまとった物語。もうひとつの歴史の上で将軍家を裏から操る大奥が日本に君臨し、そして支配者を操りすべてを操って暗躍している凄まじさは、もはやライトノベルの範疇を越えて、多くの世代に衝撃を与えそう。日本以外がまったく出てこないことも、理由があるとはいえやや不気味。さまざまな可能性を含みつつ、その容赦のない筆がどこまで物語を破壊し惑乱していくのか。作られようとしているひとつの歴史からもう目が離せない。


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