おんなごろしカードのじごく
女殺借金地獄
中村うさぎのビンボー日記


 いやあ。ボクもお酒飲んでトイレで一晩寝てたって(それも男女共用のトイレだよん)豪毅な女性記者を知ってますけど(誰だ?)、人前でペロリとパンツを下げて、コーモンを見せちゃう女性作家ってのは初めて聞きました、ねえ中村うさぎサン。

 そりゃあ人前でゲロリンするのはみっともないですよ。始末してくれる人のことを考えると、後でホント、全身から火を吹いて、家一軒、町ひとつ燃やしつくしちゃいたくなるような、激しい自責の念にかられますよ。二日酔いにでもなった日には、猫がニャアと哭いただけで、割れ鐘ぶっ叩いたような激しいショックを感じますよ。

 でもねえ、それがイヤだからって、パンツ脱ぎますか? コーモン見せますか? どうせならコーモンじゃなくってもうちょっと前の方を見せてください。えっ、ニョードーが見たいのかって? いえ、別にニョードーは見たくないんですけど・・・

 でもヤング・アダルトの作家って、儲かってしょうがない商売なんですねえ。もちろん全員が全員、年数ウン千万円なんてことはないってことくらい、ボクも知ってますよ。悪いですど、中村うさぎって作家、街で100人に聞いて知っる方っていったら、3人が関の山ってところじゃないですか。10人いたらそれは神坂一クラス、20人いたら田中芳樹クラス、80人だったら司馬遼太郎クラスでしょうね。司馬遼はヤング・アダルトなんか書いてませんけど。

 そんな中村うさぎサンでも、毎月何十万円もカードで使いまくったって、翌月にはちあゃんと引き落とされるくらい、口座にお金が振り込まれているるんですからねえ。まったく優雅なもんですよ。だからです。いくら角川書店から「女殺借金地獄(おんなごろしカードのじごく) 中村うさぎのビンボー日記」(1200円)なんてタイトルの本を出したって、杉並区の住民税を滞納して追っかけが転居先の麻布のマンションまで来たからって、質屋に言ってなけなしのロレックスを幾度も出し入れしたからって、地獄なんて状況じゃあ絶対ありませんって、下水道料金を2年分くらい滞納しているボクが、声を大にして言ってあげます。

 ビンボーなのはうさぎサン、ちょいお金を使いすぎなんですよ。麻布のマンションに引っ越したからってフツー買ういますか? 75万円のカーテンを。90万円のソファセットを。いくら対抗意識を燃やしたからって、21万円もするシャネルのスーツを横取りするように買いますか? それもディスカウントの店でですよ。豪快な使いっぷりの割には、妙なところでセコいんじゃないですか?

 イタリアじゃあ60万円もするバッグを速攻で買うし、飛行機じゃあ隣の男が気に入らないからって30万円上積みしてファーストクラスに移るし、ゲイクラブに行って一晩で25万円は飲み食いしてゲロリンとオシッコに変えちゃうし。なによりそれを無駄遣いと知っていて、けれどもその場になると自省が効かないって性格は、正直いってビョーキの部類に入りますよ。

 それでもエライですね、うさぎサンは。自分はもしかしたら「買い物依存症」ってゆう病気じゃないかって心配して、精神科医に行っちゃうんですから。普通の人だったら、まず買い物をセーブする方から始めるところを、うさぎサンは「自分はビョーキ」ってゆう激しい自覚があったんでしょうね。いきなり精神科医の門を叩いて、性根を直そうって考えるんですから。

 人前でコーモンを見せてしまうのも、お酒を飲みすぎて人事不省となって、挙げ句にゲロリンで他人に迷惑をかけることが嫌で、だったら自分ひとりが恥をかけばいいやって、思ったからなのかもしれません。だとすればうさぎサン、「女殺借金地獄」に描かれているよーな、単ある金遣いの荒いお姉ちゃんなんかじゃ絶対なくって、なかなかにしたたかでしっかりした女性ってことになりますね。

 「S区役所、白昼の襲撃!」で見せる買い物後の自己嫌悪ってのもよく解ります。税金を取り立てに来た区役所院を仮病で追い返した後、猫がストレスを受けたあとに気持ちを鎮める代償行為として身繕いをするが如く、ブティックで買い物をしまくるってエピソード。それだけだったらご本人も自問自答しているように、「服を買う金があるのなら、たまった住民税をさっさと払え、中村うさぎ!」って怒鳴りつけたくもなります。

 でもそこで、「税金払ったって服は手元に残んないもんね」って開き直るんじゃなくって、家に帰ってからブティックの袋を投げつけたくなるくらいの自己嫌悪に囚われるんですから、なかなかに可愛いところもあるじゃないかって、ちょっとジンときちゃいました。

 しっかりしていて可愛くて、おまけにお金離れの良い女性ですから、きっとモテモテなんでしょうね。うさぎサンは。それぞれの章のトップに添えられている安永航一郎さんのイラストでも、ホント美人で可愛く描かれていますもんね。年齢だって39歳はまだまだこれから花咲さばあさん、じゃなかった花も実もあるお年頃。「コーモンを見せる女性はオマエにはもったいないから潔く身を引きなさい」って曾お婆ちゃんの遺言がなかったら、ボクも真っ先におムコさんに立候補するんですけどね。いやあ残念ざんねん。


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