Oh!アヅマ

Oh!アヅマ

 「10年ぶりの新作コミック」と銘打たれた、吾妻ひでおさんの単行本「Oh!アヅマ」(ぶんか社、800円)が出ました。最後に出た単行本は、いったい何だったんだろうと考えてみましたが、思い出せません。「ふたりと5人」に始まって、「不条理日記」やら「メチル・メタフィジーク」やら、たくさんの傑作を世に送り出した吾妻さんが、それほど長い間、新作の単行本を出していなかったとは、驚きでした。

 「Oh!アヅマ」は、89年から95年までに、いくつかの雑誌に連載された作品をまとめたものです。吾妻さん本人が、あとがきまんがで「6年前の作品でも最新作なんです」と話しているほどですから、まとまった仕事というものを、ほとんどしていなかったのでしょう。

 そういえば1昨年の夏、保谷市だったかで吾妻さんのイラストを飾る小規模の個展が開かれた時に、吾妻さんの「復活」を祝う同業者の方々のコメントが、あちこちの雑誌に載ったのを目にしました。今回の新作単行本の刊行で、本格的に再始動したんだと、期待したい気持ちでいっぱいです。

 奇しくも、つい先日ちくま文庫で再刊された、とりみきさんの「愛のさかあがり」上巻の解説で、夏目房之介さんが吾妻さんととりさんの作風の類似点と相違点を指摘し、「吾妻の絵は自分の妄想世界に完結し、時代と刺ししがえてブラックホールのように果敢に自閉していった」と分析していました。

 長い沈黙が、「果敢」というほど能動的なものであったとは信じたくありません。ただ、「夜の魚」の中に、飲んでは戻す作者本人が描かれていたことを考えると、読者や出版社のニーズが急激に移り変わっていく中で、頑なに己の作風を守り通そうとして、その結果、時代とのずれが生じてしまったことに気付き、悩み苦しむ吾妻さんの心情が、そこに吐露されていたのではなかったか、とも思えてきます。

 「Oh!アヅマ」の作品はどれも、昔のままの吾妻さんの作品です。小・中・高・大と学生時代を通じて読み継いで来た吾妻ひでおが、長いブランクをものともせずに蘇った、ファンにとっては心強い作品ばかりです。時代と合うかなんでどうでもよい。私の読みたい吾妻さんの漫画がそこにあります。

 吾妻さんと常に比較されたいしかわじゅんさんが、今は最前線で活躍しています。「吾妻ひでお先生の二の舞でないかい?」と夏目さんに思われたとりみきさんは、先日文春漫画賞を受賞しました。この両者に比肩しうる活躍を、吾妻さんが再び見せてくれんことを、心より願っています。

積ん読パラダイスへ戻る