宇宙人を自称する少女とかが出てきながらも、「電波女と青春男」のシリーズは、どこかまだ現実に踏みとどまっていようとする部分もあったけれど、それでも漂っていた宇宙人とか地球の外とかいった香りが、平凡な日常と接して生まれていた不思議な感じを、もっとくっきりと浮かび上がらせた物語。それが、入間人間の「虹色エイリアン」(電撃文庫、630円)だ。

 ある日隕石が落ちてきて、周辺が大騒ぎになっている渦中でもしっかりと大学に通っていたカナエという名の女子大生。主食にしていたひやむぎに飽き始めていたけど、それでも食べ続けるしかなかった中。アパートの部屋に何者かが忍び込んで、冷蔵庫に入れてあったひやむぎを食べているのではないかと疑いを抱く。

 だったらと、部屋でタヌキ寝入りをして待ち受けていたら、そこにやっぱり何者かが現れて、冷蔵庫からひやむぎを出して食らっていた。ガバッと起きてタオルケットでその何者かを取り押さえ、見るとどうやら女の子で、泥だらけになっていた上に、どこか弱っていたこともあって、仕方がないからとカナエは、その女の子をアパートの部屋に置き、着ていた服を洗ってあげたり、ひやむぎを食べさせてあげたりして面倒を見る。

 いったい女の子は何者なんだろう? 答えはすでにカナエの一人称と交互に出てくる、その女の子の一人称でもって語られている。宇宙人。どうやら何かヤバい発明してしまい、故郷の星を追われて長い流刑の途中にあったものが、地球に落下してしまったらしい。宇宙船を修理しようと画策していたもののどうにもならず、食べ物も尽き体調にも異変が出始めていたところに、カナエと出会って世話になった。

 言語は互いに通じず、簡単なコミュニケーションの中でそれぞれに相手を理解しようとしていく、カニャエとカナエによって名付けられた宇宙人とカナエの2人。育まれる感情もあったけれど、地球に居続ければ死ぬカニャエは、修理が不可能だったはずだったはずのものが、なぜか直っていた宇宙船に乗って地球を出ていく。そこに離別の哀しさというものを漂わせつつ始まった第2話は、カナエの隣の部屋に住んでいる男性のお腹に寄生した宇宙人がいて、女性の姿でにょっきり生えては、あれやこれやと男性に向かって指図する。

 別に性別が女性という訳ではなく、以前に寄生していた人間の形を参考にしたものらしく、知性も現在寄生している男性から吸収しているため、カナエとカニャエの場合とは違ってお互いに会話が成り立っている。ただその宇宙人は、地球にとんでもないものを呼び寄せようとしているらしく、あと2年で地球はそれに当たって壊れてしまう状況にあるという。

 これは大変だ。さらに大変なことが起こって男性も巻き込んでの激しいバトルもあった先。ひとつの“再会”めいたものがあったらしく、それで地球は救われることになる。そこでもやっぱり漂う惜別の思い。宇宙人でも地球人でも、出会って触れあえば感情が生まれるものだと知らされる。

 そして第3話目となるエピソード。カナエとは大学の同級生で、猿子なんて変わった名前の少女の家に、ロブスターそっくりの宇宙人がやって来ては、間もなく地球が滅びるに当たって、救うべき人間を調査していると告げてそのまま居座る。

 別にエビではないのに、猿子にエビを買ってもらって愛でているのは不思議な趣味だけれど、そんな剽軽さを持っていたボストンという名の宇宙人の姿が、消しているはずなのになぜか見えてしまった猿子の不思議。そして、カナエの家に居候していたカニャエが乗っていた宇宙船の仕組みが、なぜか分かってしまった猿子の不思議。その裏側にあった事情が、最後でひとつに繋がって、地球は大変なことになっていたけれど、でもそんな偶然に近い重なり合いが地球を救って、そして友情も育んだというひとつの奇跡を目の当たりにする。

 偶然かもしれないけれど、でもそういう繋がりがあって欲しいと願いたくなるし、絶対にあるだろうという希望も浮かんでくる。いずれにしても、宇宙人だからと邪険にしないで親切にしてあげると、何か良いことがあるのは確からしい。自分だったらどの宇宙人に来て欲しいのかを考えながら、自分だったらどんなコミュニケーションを取るかを考えたい。

 見かけだけでも女性が寄生してもらえる方が嬉しい? そうした欲望も懊悩もすべて筒抜けになってしまうのだけれど、それでも構わない?


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