猫にはなれないご職業

 女の子っていったい、何日くらいまで、同じパンツをはき続けられるものなんだろう。そんな疑問に答えてくれている少女がいい具合にいたけれど、何しろ腐っているから本当にそれが、女の子として正しいことなのかどうかはちょっと分からない。

 神波命という名前の、パンツでも3日くらいまでならはき続けられる少女が登場するのは、竹林七草の「猫にはなれないご職業」(ガガガ文庫、600円)という小説。主役は命ではなくタマと呼ばれている雄の猫又で、陰陽師だった春子という女性の家に飼われてているうちに、もともとは普通の猫だったものが、歳を重ねながら思いを吸い取り、猫又になった。

 ところが、その春子が死んでしまって、彼女の早くに死んでしまった娘の子で、孫で命とは同級生の藤里桜子だけが残されてしまった。桜子は気丈にも家を継ぐと宣言して、財産や家屋敷を狙って近寄ってくる親戚一同を毅然とした態度で追い返したものの、本当は優しくて世間知らずなところもあるお嬢さま。春子の家業についてもは知らされていなかった上に、春子の保護をなくした桜子を狙って、八尾の狐が復活したから猫又は戦慄した。。

 妖怪になったとはいっても、ちょっと長生きした程度の猫が変化した猫又では、金毛九尾の狐に迫る妖力を持つ<妖狐の王>こと八尾の狐にはとうてい及ばない。かといって、みすみす桜子を狐に食われる訳にはいかないと、猫又は桜子のことを大事に思っている友人の命の手を借りることにした。

 何くれとなく桜子の家に来て様子を見ていた命が、八尾の狐に操られて狐の封印を解いてしまったことにつけこみ、命のある趣味を世の中に露見させると脅しもして、猫又は命を桜子の身代わりとして立てて、八尾の狐の目をそちらにそらさせようとするる。

 一方で、生前の春子が猫又とともに「こんなこともあろうかと」育てていた蒼龍を甦らせて八尾の狐を倒そうとする。連れて行った桜子が実は命だったとばれ、怒った八尾の狐に食われそうに命がなった時、猫又が放った言葉に狐も命も驚いた。その言葉こそが「その娘はな、どうしようもなく−腐っておるのだ」というものだった。

 いったいなにがどう腐っているかというと、それは例えばボールペンのキャップを外したりつけたりしながらうっとりしたり、鉛筆と鉛筆削りの関係に妄想をふくらませたりするような腐り方。年頃なりに健全な乙女だったらピンときそうなその状況を、自覚している命は開き直って「私は腐ってるよ」と言い放つ。

 妖怪ならではの力を使って、命の言に偽りがないと受け止めた八尾の狐だったけど、その認識は決して今時の女子にありがちな腐り方ではなく、本来の意味からの腐敗という意味。だから食べたらどうなるかと迷った隙に、命は食われずに済んだ。女の子が腐るのも決して虚しいことばかりではない。

 そこでもしも狐が命を食べていたとしたら、いったいどんな味がしたんだろうか。ぐじゅっとした汁が滲んで口中に栗の花の香りが広がったのか。それとも何日も洗っていない下着のような酸っぱさが広がったのか。。

 というのも命、3日ルールというのを勝手に作って、Tシャツでもジャージでも3日くらい洗ってないのなら着て大丈夫だと自分を納得させ、酸っぱい匂いも気にせずミニまとっていた。寝間着なら分かるけれども、弟の見立てによるならそこにパンツも入っているらしい。

 だから問題は、これは女の子として正しいのか、それとも違うのかということ。一般常識として1日で替えるなり、それこそ1日に何回か履き替える人もいたりするらしいけれどもそうではない、3日くらいなら大丈夫かもって心理を抱いてそれを実効に移している女の子は世界に実在するのか。これはやはり問題だ。とても大きな問題だ。

 単にお話を面白くするためのものなのかもしれないけれど、仮にそういう人がいて、腐っていておまけに美少女だったらそれはそれでとても魅力的な存在だろう。唯一性と絶対性の高さで貴重と見るべき。近寄らせられるかどうかはまた別の話だけれど。

 さて「猫にはなれないご職業」は、猫又と命の活躍で八尾の狐は倒されたものの、今度は狐を以前に倒させながらも、呪いが帰ってくるのを恐れ封印した犬神が復活して、桜子を襲うという話になって、再び命と猫又がタッグを組む。皆を護ろうとして自ら命を差し出しながらも、それを分からず怨みの塊となって、飼い主を襲う犬の清十郎がどうにももの悲しいけれど、それが妖怪であり、悪霊というもの。安易に作り使おうなどとは考えない方が良い。

 そんな周囲の戦いや犠牲を知ってか知らずか、家に引きこもって祖母の思いでに浸っていた桜子も、どうにか陰陽師として立つ決意を固めた様子。もっとも、こちらはこちらで着物を着たら裾からパンツを見せてしまう粗忽者だけに、果たして真っ当に戦えるのか。やはり猫又と命を困らされるだけなのか。続刊での成長なり、そろっての腐れっぷりに期待して待とう。


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