ギロチンマシン中村奈々子義務教育編

 そりゃあ“萌え”るさ。儚げな、花と戯れているのがよく似合う可憐な少女にM字開脚されつつ「幼少時の虐待か何かが原因で幼い少女しか愛せなくなった社会の屑め」なんて罵倒されれば。誰だって。

 違う? それは“萌え”じゃない? だって“日日日初萌え!?”と帯に書いてあるんだら、間違いなしに”萌え”って奴だと思うけど。ともあれ登場の日日日「ギロチンマシン中村奈々子 義務教育編」(徳間デュアル文庫、648円)。表紙にも口絵にも美少女が配され、ビジュアル面から読者の心をクチュクチュくすぐる。

 ストーリー面でもやっぱり心へのくすぐりが。主人公の”僕”が目ざめるとそこには世話好きな女の子が早速もってご登場。「To Heart」のマルチよろしく、耳がカラフルな機械に覆われていて、変なコードが垂れ下がっていて、おまけに眼差しもよくよく見れば無機質な機械っぽさを持っている。

 いったい何者? 訪ねるとそこはロボットが学んでいる「学園」で、もしも人間が歩いていたら2秒で殺されちゃうんだどか。言われて”僕”は大慌て。だって“僕”は人間だから。

 実はこの世界。映画の「ターミネーター」よろしく賢くなって人間たちを襲い始めたロボット相手に、人間たちが瀬戸際の闘いに明け暮れている真っ最中。”僕”はと言えば、ロボットを率いる”チェシャ・キャット”を暗殺するために訓練され、敵地に送り込まれる途中だった。

 それが何のはずみか、移動の途中で乗っていた飛行機が事故に遭遇。気が付くと「学園」のある浜辺に打ち上げられていて、それをロボット娘の加藤千紗が見つけて助けてくれたって寸法だ。

 幸いにして千紗は“僕”が人間だとは思っていなかったようで、あれやこれやと世話を焼いてくれる。学園に生徒としての登録に向かうのにも付き合ってくれたけど、その途中、何やら激しい戦闘が行われている場面に行き当たった。

 暴れていたのは、学校の姿勢に反旗を翻す<生徒会>なる組織のメンバー。そこに現れたのが手に巨大なギロチンの刃と、何でも分解してしまうビーム光線の発射装置を取り付けた少女だった。彼女こそが「ギロチンマシン中村奈々子」。「学園」の決まりを守らない不良に挑んであっさりと撃破。その戦いぶりを千紗は恐れていたようだったけど、“僕”は中村奈々子の言動が気になって仕方がない。

 そんな戦慄の出会いをくぐり抜け、とりあえず学園に無事に入り込んだ“僕”だったけど、そこに仮面を外して普通の少女の表情になった中村奈々子がやって来た。どうやら自分が憧れた教師の中村奈々子に、“僕”がそっくりだったらしい。それってどういうこと? 分からないまま“僕”と奈々子との関わりが始まる。

 もっとも“僕”はとえいば、目的の”チェシャ・キャット”暗殺のために学園を散策する毎日。近寄るためにはギロチンマシン中村奈々子のような立場になれば良いと聞かされ、暴れん坊の番長に挑むも、全身これ破壊兵器という番長相手に粉砕されて敢えなく退散。事後の対策を練るものの見つからない。

 そこにまたしても美少女登場。「保健室」にいる赤ずきんなる伝説の人物が“僕”に会いたいと言ってきた。<生徒会>を作った赤ずきんなら助けになるかもと思って乗り込んでいった“僕”が見たものこそ、M字開脚の格好で、肩に載せた鳥の口を借りて悪口雑言をまき散らす少女だった。これぞ“萌え”。違う?

 そして赤ずきんは言う。どうして“僕”は「中村奈々子」と同じ顔をしているのかと。赤ずきんと同じ顔をしているのかと。

 どうやら「中村奈々子」というのは1つの記号のような存在で、それはロボットを生み出し、ロボットを狩り立てる人間の知性の象徴にも見えるけれど真偽は未だに不明。人類がロボットによって瀬戸際に追いつめられている状況が現にあって、だからこそ“僕”は首謀者“チェシャ・キャット”暗殺に送り込まれた。

 そんな状況を人間の「中村奈々子」が作り出したのか? だとしたら目的は? まだ何も分からない。それとも同じ顔をしている「中村奈々子」こそがロボットで、ロボットとして怒りや悲しみを「学園」で学んでいる生徒たちこそが、未来を担う人間たちなのか?

 いろいろと想像も浮かぶ複雑な世界の構造の中、続く「学級崩壊編」で“僕”や「ギロチンマシン中村奈々子」や赤ずきんや「保健医ロリエ」、そして大元となった中村奈々子の正体が明らかにされ、学園の未来に人類の将来といったものが明らかにされるんだろう。

 ロボットとは? 人間とは? そんな問いもあってSF風味も結構聞いた物語。蹂躙されるロボットの“魂”に対する怒りと悲しみといった、涙もにじむエピソードも挟まれていたりと、感動方面のサービスも満載恐れて笑い泣けて楽しめる1級品のエンターテインメント。それが「ギロチンマシン中村奈々子」だ。

 だけどやっぱり最強は、M字開脚の罵倒美少女。言われて見たいよ。彼女にだった。こんな言葉も。「わかったぞ。君はロリコンなのだね。私のような可憐なロリっ娘に欲情するようなペド野郎か。ふふ、哀れな生き物め。いいだろう−存分に萌えるがいい、萌えるがいよ。ははっ!」。

 こりゃあ“萌え”るぜ。


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