魔法の子

 小野不由美が描くファンタジーは「魔性の子」だけれど、入江君人のこちららは「魔法の子」(富士見ファンタジア文庫、580円)。タイトルどおりに魔法を操る子供たちが出てきて、群れ集い戯れ戦う姿を見せる。

 冒頭からアキラという名の少年が、手にしたナイフで幼女を切り刻んでいたりして、驚きを感じさせたその後、しばらく時間が経った場面へと物語は移って、そこでアキラは差し迫るピンチと戦っている。それは魔法を持つ子供たちに課せられた義務とも言えるもの。アキラはその義務に半ば逆らう状態にあって、捕縛されるピンチにあった。

 なぜアキラは捕縛されなくてはならないのか。どうして逆らうような状態にあったのか。それはアキラが、いちど魔法を失ったにも関わらず、なぜか魔法の力を取り戻していたから。この世界で人間は、ある時期を境にして生まれた瞬間から魔法が発動するようになった。そして歳を重ねるごとに何割かづつの子供から魔法が消えていくことが分かっていた。

 子供はすべて魔法という一種の超能力を持って生まれてくる。だから「魔法の子」。とはいえ、動物に等しい何も知らない赤ん坊が、泣き叫ぶ中で周囲に人間がいたり、建物があったりすることも気にせず、というより巡らせる気持ちなど持たないまま、派手な魔法を発動させては甚大な被害をもたらしていた時代もあった。

 中にはその凄まじ魔法によって大勢を焼き殺してしまったような赤ん坊もいたらしい。それでもだんたんと調査が進み、魔法が働く様子が分かるようになって、生まれたばかりの赤ん坊の魔法を違う魔法の力で抑えることが可能になった。被害は収まり、赤ん坊も安心して生まれて来られるようになった。

 とはいえ、成長の過程で無邪気さ故に残酷な魔法を発動させかねないことから、魔法の力を持った子供たちは、すべて国の監視の元に育てられることになっていた。アキラもかつてはそうだった。けれども大きな事件をきっかけにして魔法を失って、子供たちの群れから離れて暮らすようになった。ある目的のために。

 けれども、なぜか戻ってしまった魔法の力を見とがめられ、魔法を未だに保持した少年少女が集められた学校へと戻されて、そこで冒頭、アキラによってナイフで切り刻まれていた少女と再会する。その名は凛。アキラの妹。怪物に襲われ逃げていたところで、アキラによって応急処置を受けていた。

 怪物とは何か。魔法を持った子供たちが生まれるようになった世界では、同時にそうした子供たちと海へとさらっていく怪物が現れるようになっていた。逃げたり戦ったりするのも魔法を持った子供たちの役目。そうした任務に付く妹や、同級生たちとともにアキラは怪物に立ち向かい、そして驚くべき存在と対峙することになる。

 幼さはまるでなく、クールな性格となった凛と再会したり、こちらは勝ち気な桜田ノアという名の同級生の少女と口げんかしたりする、ライトノベル的にラブコメチックな展開が楽しめるストーリー。もっとも、それだけでは終わらせず、ノアの過去が今に災厄となって現れては、似た悩みを抱えるアキラを迷わせる。自分の過去とも重なる問題にどう立ち向かうのか。壮絶な戦いが幕を開ける。

 自我を持たない赤ん坊の魔法によって、いったいどれだけの損害があったのか。そうした現象はそもそもどうして発生したのか。海から現れ子供たちを連れて行く怪物はいったい何を意味するのか。魔法そのものになってしまう子供の行方は。少年が探し求めるもう1人の妹の現在は。投げかけられた謎や見えない秘密に向かって、これからのストーリーが進んでいくことを期待したくなる。

 魔法を維持したまま大人になる人間もいたりする状況で、魔法を失うことへの恐怖と、それによって怪物を気にせず普通の生活を送れることへの憧れがない交ぜになった少年少女の思春期が、活写される展開も面白い。自分なら永遠に魔法を持ち続けたいか、それによってエリート面したいか、それとも魔法などない生活に戻って、夢のために邁進したいか。

 迷えるうちが思春期。その恩恵を噛みしめながら未来を探ろう。それは誰の物でもない、自分のためものなのだから。


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