レンタルマギカ
「魔法使い、貸します!」  「魔法使いvs錬金術師!」

 どう見ても凡人。むしろお荷物。けれども圧倒的な強さを誇る敵に襲われ、絶体絶命のピンチに陥ったった時、その内に眠っていた力が浮かび上がって、敵をも上回る強さを発揮して、すべてを蹴散らす主人公という設定が、マンガやアニメーションで流行っている。もちろん小説でも。

 理由はそんな主人公に誰もが憧れているから。自分には絶対にそんな力はないと分かっていて、けれどもそんな力があったら良いと思っているから。適わない願い。それを架空の世界に見て、自分のことのように感じて興奮したいから。

 同じ設定ばかりで読んでいたり見ていたりし飽きないのか。そう聞かれれば飽きないと答える。オリジナルの設定を作って新しいことに挑むのも、エンターテインメントには大事なこと。一方で、定番の設定を突き詰めて、そこにキャラクターなり、物語ばり文体なりでオリジナルの味を出すエンターテインメントもある。

 ラーメンにカレーにスパゲッティ。見た目は同じ。しかし味は多彩。そんな感じで、受け取る側が「またラーメン(orカレーorスパゲッティ)か」と投げるんじゃなく、「これがラーメン(orカレーorスパゲッティ)か」と食いつく料理にすれば良い。そんな料理を出来るかどーかでで、調理する使うクリエーターの力量も決まる。

 三田誠の「レンタルマギカ」シリーズ。伊庭いつきという名の少年は、幼い頃の事情で片方の眼を眼帯で覆った姿で生活してる。隠している眼にはそれでも幽霊とか怪物といったものが映るらしい。もっとも見えるだけで祓うとか退治するといった力はない。気も弱く、優しいだけが取り柄のごくごく普通の少年として学生生活を送っていた。

 そんないつきに一大事。失踪した父親が運営していた会社を継がされることになって、行くとそこは「魔法使い派遣会社アストラル」という会社。父がそんな仕事をしていたとは知らず、驚き慌てるものの頼られると断れない性格の少年は、猫4匹を扱う陰陽師、まだ幼い少女の巫女、そして英国の魔法学校を主席で卒業しながら、なぜかいつきの下で働きたいとやって来た穂波・高瀬・アンブラーという少女を社員に、社長としての仕事を始める羽目となる。

 第1巻の「魔法使い、貸します!」(角川スニーカー文庫、514円)では、穂波の魔法学校時代の知り合いで、今は別の魔術集団「ゲーティア」を率いるアディリシア・レン・メイザースが現れては、社長不在でしばらく本来の仕事をしていなかった「アストラル」が、会社を存続させるために<協会>から命じられて入札を余儀なくされた仕事を成し遂げるのは「ゲーティア」だと絡んで来て、ひと騒動が持ち上がる。

 その仕事、どうやらアディリシアに因縁のあるものらしく、ソロモンの魔術を使い73の魔神を操り「アストラル」の面々を出し抜いて、アディリシアはひとり不気味な敵、わき上がる「夜」へと迫る。ところが敵は強力で、アディリシアの力も及ばず助けに入った穂波ともども敗れそうになった時。アディリシアともども「夜」に捕まっていたいつきの中に眠っていた力が発動して、強大な敵を討ち果たす。

 人知を超えた魔法の力を操る魔法使いは、その及ぶ力の凄さを身に染みて知っている。やがて魔法の力に魅せられ魅入られて魔法に自らを委ね、より強力な魔法を発動させたいと願うようになる。挙げ句、優れた魔法使いは闇の世界に捉えられ、闇へと自らを同化させては破滅へと突き進む。創り出す力の素晴らしさ。破壊する力の怖ろしさ。力を持つ意味を考えさせる。

 そして第2巻。「魔法使いvs錬金術師!」(角川スニーカー文庫、590円)は、いつきが父親から引き継いだ「魔法使い派遣会社アストラル」の創設メンバーで、2割の経営権を持つという錬金術師のユーダイクス・トロイデが現れて、いつきの父親が残した荷物の相続権は自分にあると言って「アストラル」とバトルになる。

 魔法を使わない魔法使いとして、希有な存在だったいつきの父と同僚だっただけあって、ユーダイクスの持つ力は穂波もアディリシアも上回って凄まじく、「アストラル」のメンバーを第1巻の時以上の危機へと追い込む。そこでもやっぱりいつきの秘められた力が弾けて、すべてを解決してしまう。

 ユーダイクスを兄と慕うラピスという名の少女の、ユーダイクスに命じられていつきを見張り、ユーダイクスを見捨てず、いつきの力によってボロボロにされた彼を支えようとする健気な様に、目を惹かれ心奪われそうになる。邪険にされても、利用されるだけの存在でも、産んでくれたものへの感謝、育ててくれたものへの思慕はなくならない。なくしてはいけない。そう教えられる。

 もっとも。いつきの力は持って生まれたものではなく、また力を使えば使うほど少年を苦しめる諸刃の剣だった。単なる隠れたスーパーヒーローものではない、悩みと苦しみを抱えて戦うヒーローものだったという点が、「レンタルマギカ」の味となって読者の舌を刺激する。いつきがその苦しみをどう解決していくのか、いつきがそうなってしまった責任の一端を背負っている穂波が、覚える痛みをどう乗り越えていくいくのか。興味は尽きない。

 唐変木で鈍感で、穂波とのことをすっかり忘れているいつきに、苛立ちながらも好意を寄せる穂波。幾度となく助けられ、いつきに惹かれていくアディリシア。羨ましくも壮絶な三角関係の行方に興味が及ぶ。「アストラル」の社員で凄腕の陰陽師という猫屋敷蓮の正体、現れては「アストラル」を度々の危機へと追い込む<協会>の狙い。そしていつきの眼帯の下に埋め込まれた「妖精眼」の真実。散りばめられた謎が、巻を重ねていくなかで明かされ読者を楽しませてくれそうだ。

 眼鏡っ娘でセーラー服。なのに喋る言葉は関西弁という穂波が、その強烈なキャラクターの割には前面へと出て活躍したり、自己主張したりないのが、キャラクターに入れ込みたいファンには物足りないところかもしれない。穂波といつきの腐れ縁的関係を土台に話を展開していけば、ラブコメチックな魔法使いものとして、もっと分かりやすい話になっただろう。

 が、そんな甘い味付けを使わず辛くて苦い味付けを選んだのが「レンタルマギカ」の三田誠。しばらくは多々いるキャラクターのそれぞれに見せ場を与えながら、少年の成長と苦難にスポットを当てて引っ張っていって欲しいもの。テーブルへと出され続ける皿たちが味わわせるフルコース。その星の数は幾つになるだろう。3つか。4つか。それ以上は確実と、願望も含めて期待しよう。


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