魔法通信マジカルピッピ

 某携帯電話会社の社長室。

 「大変です社長」「どうした宣伝部長」「ライバル会社がイメージキャラクターにあのベッカムを使ってきました」「おお、あの功利主義を発明した」「それはベンサム、違いますベッカムです、デビット・ベッカム」「デビッド伊東さんお元気ですかお手紙くださいミスター珍」「伊東は付きません」「デビッド伊東とラビット関根くら違う」「どう違うんですか」「そうかあのサッカーW杯でイングランド代表として出場し鶏冠頭とワイルドフェイスがギャルに人気でベッカマーを山と産みだしたクロスが正確なだけが取り柄のブラジル戦ではタックルを避けて捨てたボールを拾われ向こうの得点につながってしまった妻が元スパイス・ガールズで息子がブルックリンとかいうベッカムか、それは大変じゃないか」「くっ、詳しいですね、だから大変だって言ってるでしょう、おまけにただイメージキャラクターとしてCMとかに出るだけじゃないんです」「そりゃタダじゃないだろう、1億円くらいは……」「黙れ社長、いやだからですね、何と携帯電話からベッカムの生声が聞こえて来るんですって」「『もしもしわたしベッカムちゃんですパパはリビアで大佐をしているの』って」「……そんなお遊びじゃありません、買った人の中から365人にですね、1年にわたって順繰りにベッカムから電話がかかってくるんですよ」「ジオスいかなきゃ」「そりゃ時間とか言葉の問題とかあるでしょうけどでもですね、本人から直接コールが来るかもしれないって期待があればベッカマーもサッカーファンもマンチェスター・Uのサポーターも買いますよ、365万台売れたって1万人にひとりですから東京ヴェルディvs柏レイソル戦とモンテディオ山形vs横浜FC戦が入ったtotoをパーフェクトするより確率高いです」「エジウソン帰っちゃうんだもんなあ役立たずの穀潰しめが」「1年が終わるまでは自分にチャンスがあるかもしれないって期待が引っ張られますから1年間は他のキャリアーに乗り換えません。逆に2番手の我が社からどんどんと契約者を奪われます」「えーんえーん会社が潰れちゃうよー」「あんたはガキか」「でだ、宣伝部長、何か対策はとってあるのかね」「こんなこともあろうかと」「声が青野聰になっとるぞなにもかもみな美しい」「そっちこ納谷五郎に、いえですからちゃんと対策を用意してあります」「バカメといってやれ」「いつまでもやってんじゃねー」「あなたの心をです」「殺す」「ノーヴァ!」「ぶっころす!」「……蟲を殺しちゃだめ! それはユパさまじゃないナウシカ、って自分で突っ込んでどうする、ああそうかそれは素晴らしいぞ宣伝部長、してその対策とは」「向こうがベッカムなら当社はオリバー・カーンでいきます」「なにあのサッカーW杯でドイツ代表の一員として出場しゴリラフェイスがなぜか婦女子にも人気で得点を奪われないことにかけては21世紀最高との誉れも高い芝生が冷たいと機嫌が悪いと歌にも唄われるスーパー・グレート・ゴールキーパーことオリバー・カーンか」「ボケませんね、ええそうですそのカーンです」「やっぱり電話がかかってくるのか、わしはドイツ語もゴリラ語もできゃせんぞ」「チッチッチッ、そんな猿真似はしません、当社の技術開発部が開発した携帯はですね、何と人が送れてしまうのです」「がちょーん」「あらかじめ決められた番号を相手が呼び出すとですね、向こう側にいる人間がデジタル化されて伝送されて現れるんです」「びろーん」「当社はですね、それを応用して『オリバー・カーンのお助けサービス何でもかんでも止めちゃうぞ』を始めます」「だっふんだ」「たとえば夫婦喧嘩をして妻が家宝にしている古伊万里の大皿を投げて付けて来た時、携帯電話でカーンを呼び出してキャッチしてもらいます」「アイーン」「それから大リーグを見に行ってバリー・ボンズが史上初のシーズン100号ホームランを打った時にもスタンドに呼び出して取らせます。ファットなアメリカ人なら体が大きくてもカーンの敵ではありません」「これでギャラはおんなじ……じゃあつまらないし、ごめんクサい……じゃあ月並みかあ、『ひとりごっつ』のビデオ見とけば良かったよ……」「……続けます、つまりいつでもどこでも携帯で呼べばやって来る正義の見方、我らがオリバー・カーンって訳です」「顔より大きなグローブを構えたスクールボーイを蹴り飛ばしてホームランボールを横取りするのが正義か、まあいいそれでそれはいつ出来るのかね」「もう出来てます」「ちんぴょろすぽーん」「やってみせます」「みせたまえ」「ピッポッパッ、お願いカーンさんこの脳天気社長をこらしめて」「フンガーッ!」「わっ、宣伝部長、なにかねこれがオリバー・カーンかね、オリバー・カーンがどうして上半身裸なのかね」「モンゴリアンチョーップ!」「すいません社長、番号を間違えてキラー・カーンを呼び出してしまいました、こっちだこの番号だペッペッピッ」「ノーローン!」「違うこれはイッシュウ・カンだ、ポッポッピッ」「めざせモスクワーっ」「ジンギスカンね、ええっとバッポッペッ」「ダバダー、違いがわかる男」「石丸寛、ポッペップッ」「インターナショナール」「クロカン、ポッブッパッ、ツジカン、ピップッペッ、スズカン、ポッピッパッ、加藤寛……どうしたんだろう革マル派の理論的指導者と名古屋で有名だった議員で辻真先の父親と元通産官僚で『週刊朝日』の連載が死ぬほどつまらなかった国会議員と行革で名を馳せた白髪頭の世相講談学者しか出てこない、プッポッペッ、パッピッパッ、ペッポッポッ……」「ぜいぜい、宣伝部長宣伝部長」「おや社長どうしました両耳を腫らしていらないローンを組まされてディスコミュージックを聴きながらゴールドブレントを口に運びつつこぶし書房『実践と場所』なんかを読んで」「みんなあんたがわるいんや、いやそうでなく宣伝部長、カーンで探すから間違えるんじゃないのかね」「それはいいところに気が付きました、まるで社長みたいです」「だから社長だってば、いいからオリバーでやってみたまえオリバーで、きっと現れるはずだから、あのゴリラ野郎が」「わかりましたポッパッポッ」「…………」「すいません社長」「何だねこいつは」「…………」「出るには出ましたが」「たしかに猿だが」「…………」「オリバーはオリバーでも」「人間にも見える」「…………」「オリバーくんが出てしまいました」「きみとはもうやっとれんわほなさいならちゃんちゃんby『吉本新喜劇ギャグ100連発』」「終わったの? あー暑かった」「あっ喋りました」「おっ脱いだぞ、やっぱ着ぐるみだったんだ……」

 藤咲あゆな「魔法通信マジカルピッピ」(エニックスEXノベルズ、840円)はまあ、こんなような話です。携帯電話でやって来るのは美少女です。ライバルも登場します。面白いので読みましょう。

 「オリバー・カーンが魔法少女になるのか」「いーかげんにしなさい」


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