コボルドキング1 騎士団長、辺境で妖精犬の王になる

 猿でも犬でも雉でも鬼でも、人間とほぼほぼ並ぶか人間以上の知性を持った生き物たちが存在する権利を主張し、土地を持ち町を作って国を建てたら人間はそれを当然と認めるだろうか。同じ人間であっても人種が違う、宗教が違うと言って人間扱いをせず、弾圧し虐殺して人間が、人間以外の存在と相互に権利を認め合うようなことには、すぐになりそうもない。

 だったら戦うしかない。戦って権利を認めさせるしかないが、数に勝り武力も膨大な人間を相手に戦って勝つのは容易ではない。滅ぼされてしまうことだってある。ただ、人間でも人種が違う、宗教が違うといって弾圧され虐殺され続ける中で、これは正しくないといった考えが出てきて、後に存在を認めるようになった歴史もある。

 そこに至るまでには、まずは立ち上がることが必要なんどだと決断し、戦うなり話し合うといった道を探る。Syousa.による「コボルドキング 騎士団長、辺境で妖精犬の王になる」(レジェンドノベルス、1200円)に描かれるのはそんな、弱者が存在を訴え権利を求めて立ち上がり、自分たちの居場所を得ていく道だ。

 とてつもなく強靭な肉体と武技で暴れ回り、【50人斬り】だの【人食い】だの【味方殺し】だのと言われ、畏怖されたガイウス=ベルダラス男爵。鉄鎖騎士団の団長として騎士たちを率い、隣国連合軍との戦いで勇猛を誇って名を馳せ、歴代の国王や王妃らに寵愛されたが、平和が続く中で政治体制が変わり、疎んじられるようになったこともあって、騎士団を辞め爵位も返上して地元に帰ることにした。

 けれども、帰った先の村はすでに人影がなく、どうしようか思案していたところにコボルドと呼ばれる犬のような姿をした妖精が、蟲熊というモンスターに襲われていたところに居合わせ、助けてそして怪我をしていたコボルドの女を隠れるように住んでいた村へと連れて行く。

 フォグという名だった女コボルドが前に住んでいた村は、金目の物を探して奪いに来た人間たちによって荒らされ仲間も大勢殺されていた。逃げるようにして移った先で隠れるように住んでいたこともあり、トロルが4分の1入ったガイウスでも、ヒューマンとしてコボルドの村で危険視され、最初は捕らえられたような形になるも。もっとも、強面でも実は優しく、可愛いものが大好きなガイウスは、事故で崩れた家から子供のコボルドを助けるなどして信頼を得て、コボルドの村で食客のような形で暮らし始める。

 そこに、騎士になる学校で助けられたこともあり、卒業して騎士となってからはガイウスが率いる鉄鎖騎士団に彼を慕って入ったりもしたハーフエルフの女騎士、サーシャリア=デナンや、鉄鎖騎士団ではサーシャの同僚で、ガイウスの養子にもなっていたダークという剣士も公安の仕事を放り出してガイウスの元へと駆けつけ、ちょっとした賑やかな光景が現出する。

 平和に暮らすコボルドたちと、昔の仲間たちが集まってガイウスを取り合うようなコミカルな日常が始まるかというと、世界は残酷で人間は傲慢。コボルドの村をはじめ異種族を襲って金目の物を奪う人間たちが現れて、ガイウスが暮らすようになったコボルドの村にそうした魔手が及びそうになる。

 もちろん【50人斬り】で【人食い】と呼ばれた勇猛さは伊達ではなく、襲ってくる相手が少数ならば騎士であっても負けることはなく、あっという間に切り伏せてしまう。けれども相手が大勢になれば、どれだけ強くても元騎士団長であっても勝てる保証はない。何度も繰り返し襲ってくる人間たちを相手に苦戦をし、友人となったコボルドを失ったりも。慕ってやってきたサーシャリアにも決して消えない傷をつけられてしまう。そういった部分はシリアスでリアル。俺TUEEEによる無双がすべてを退けるようなカタルシスは得られない。

 だからこそガイウスは考える。どうすればコボルドたちを救うことができるのかと。見逃して欲しいと言うだけでは通らないと感じたガイウスは、コボルドだちの王となってコボルドたちが安心して暮らせる国を作ろうと動き始める。

 気になるのは、コボルドがいてエルフもいてトロルにドワーフもいたりする世界であるにも関わらず、そうした人間以外の種族の命が軽んじられているように見られる点。下に見られてはいても、知性を持った種族として存在を許されていても良いのに、コボルドの村のように襲われ虐殺されても人間たちは咎められない。本当は悪事であるにも関わらず露見していないだけなのか、人間にとって虐殺しても良い存在なのか。そうした関係が浮かび上がってくるのを待ちたい。

 いずれにしても、ガイウスが立ち上がった以上は、新しい関係がそこから生まれていくのだろう。追い詰められた状況からの反撃にガイウスがどう関わり、慕ってついてきたサーシャリアとダークがどう支援し、そしてコボルドやほかの異種族たちがどうまとまっていくのか、といった興国の物語がここから始まりそう。今の時代ではお荷物でも、かつての王族たちに慕われていただろうガイウスの人脈と人徳も発揮され、そして類い希なる武力も乗って繰り広げられる戦記であり、政治であり外交の物語を楽しめそうだ。


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