キルぐみ

 顎に手を当て「むーん」と悩み考え込む逆木原赤糸さんが可愛すぎる。以上。

 いや、決してそれだけではない竹内佑の「キルぐみ」(ガガガ文庫、571円)という小説は、冒頭から現実なのか夢の中なのか分からない病院の中を、大垣内歩という名の少年がなぜか「僕を着てくれ」と喋る着ぐるみの皮みたいなものを持って、逃げまどっているシーンが描かれ、猟奇とも怪奇ともつかない恐怖感を与えつつ、話は前日の学校へと戻る。

 歩とは友人らしい郷田勇気という少年がいたり、可愛らしい柄州巴という少女がいたりと、クラスでの関係は良好なように見えるものの、歩には中学時代に陸上部に所属しながら無理をして膝を壊した過去があり、それを引きずっていてどこか積極的になれない状態にあったりする。

 そんな歩に、郷田は友人として球技大会に出ないかと誘いかけているけれど、それは本当に心から誘っているのか、怪我をして満足にプレーできない歩を招き入れることで、彼に屈辱を味わわせ、自分たちが優越感に浸ろうとしているのか、よく見えないところがどうにも薄気味悪い。

 取り繕って上辺だけの関係を維持しつつ内心では、あるいは今風にいうならSNSの中で誹り痛めつけていたりする今どきの学校の今どきの生徒たちの匂いが、どことなく漂って来るストーリー。学校とはそんなに居たたまれない場所なのかという想像が、読む人の身を切なくさせる。

 そんな歩に話しかける少女が1人。彼女こそが逆木原赤糸さん。とても優秀で美しい彼女が、なぜか歩に関心を持って電話番号を聞き出す。けれども自分の番号は教えないという不思議さ。なんだろう。なぜだろう。彼女なりの思い入れがあるのだろうか、それとも別の思惑があるのだろうかと歩は不思議に感じる。そして「むーん」だ。問われて考え込む時に見せるその仕草は可愛いけれど、やられた歩にとっては可愛いさを通り過ぎて謎めいた印象を与える。

 そんな赤糸さんと約束をかわす一方で歩は、郷田からはその時は意味不明にしか聞こえなかったけれど、自分がもしもどこか病院に立っていて、そこで喋る着ぐるみに着てくれと話しかけられることがあっても、決して着ぐるみの中に入るな、入らなければ友人でいられるからと忠告もされていた。彼が言うならそうなんだろうと聞き入れることにした、その夜。

 歩は赤糸からかかって来た電話を受け、そして気がつくと郷田に言われていたような病院のような建物の中に立っていて、そこでベッドに横たえられていた、中身が空っぽでぺしゃんこなのに、なぜか言葉を話す着ぐるみから、「僕を着てくれ」と呼びかけられる。

 どうすればいいのか。迷う歩のいる部屋にやって来たのが、凶悪そうな着ぐるみをまとった郷田だった。彼は歩にとって友人か。何かから守ってくれるのか。それとも違うのか。どうにもうまくいかない状況で逃げ出した先で、追いかけるようにして現れたのが赤糸あった。

 彼女も敵か。消息を立ったクラスメートたちにそうしたと郷田が言うように、自分を殺そうとしているのか。世にも恐ろしげな髑髏の顔を持った着ぐるみのデザインが、赤糸への不信を募らせ歩を追いつめる。そして……。

 敵も味方も見えない中で歩は決断を迫られ、その上で自分自身が戦いの中を生き残っていくための道を探らされることになる歩。誰が何のために用意した世界なのか、といった状況は何も分からず、これからどうなるのか、といった未来も伺えない手探りの中、いろいろと明らかになっていくだろう展開が楽しみな作品。ただ、それ以上に赤糸さんがやっぱり可愛い。可愛い。可愛いすぎる。

 何か迷う度にかならず頬を挟んで「むーん」と考え込むその仕草。その声音。是非にアニメーションで見たいけれど、いったい誰が演じるのが良いのだろう。少し独特過ぎるイラストのデザインそのままでは、アニメにしてもらえそうもない可能性もある。ただ、あのデザインだからこそ、浮かぶ見かけによらない純粋で真摯なイメージもあるだけに判断も難しいところだろう。

 着ぐるみの中の人という、存在してはいけない存在を設定した上でそんな着ぐるみと中の人とが合致したところに生まれる不思議な力を描き、そんな力がぶつかりあって削り会う恐怖を描き、仲の良さそうなクラスメートたちが腹に欲望と渇望を抱えて猛りぶつかり合う凄まじさを描いたシリーズ。歩は生き残ることが出来るか。赤糸さんは可愛いままでいてくれるのか。期待して待とう、その続きを。


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