きみを死なせないための物語4

 何かの理由あって住めなくなった地球を脱した人類が、コクーンと呼ばれる宇宙に浮かぶ巨大な都市に暮らすようになった未来。そんな人類からネオテニイと呼ばれる新人類たちが生まれて来るようになった。宇宙に適応したためか寿命が極端に長く、中には数百年を生きるものもいる。成長も人類に比べてゆっくりしていて、20歳くらいになっても見かけは子供のまま。それでいて早熟なのか頭も良くて、早いうちからいろいろと発明や発見をしてコクーンの科学や経済の発展にも貢献している。

 ネオテニイは貴重な種族としてコクーンの中で優遇され、普通の人類たちから強い関心を寄せられている。そんなネオテニイの4人が主要なキャラクターとして登場し、だんだんと成長していく姿を追いかけるように描いているのが、吟鳥子によるマンガで、中澤泉汰が作画協力をしている「きみを死なせないための物語(ストーリア)」シリーズ。「きみを死なせないための物語4」(秋田書店、454円)までシリーズを重ねる中でどんどんと、人類という存在が未来において、宇宙時代にどう生きているのかを想像させるSFとしての色濃さを増し、読み手の関心を引きつける。

 第一パートナーとして、ある種の幼なじみとして育った男子のアラタとシーザーとルイ、そして女子のターラが長じて、キス程度のちょっとした性的接触も許されるだろう第二パートナーになり、それぞれに科学者であり軍人であり芸術家であり医学者といった立場になって、コクーンのためにその叡智を勝つようし始めている。そこから先、生殖をして子孫を残すための第三パートナーになるかどうか、といった段階でアラタとターラは足踏みし、ルイはシーザーからの第三パートナー契約の申し入れを断ってしまう。

 4人の中に漂っているのが、ダフネー症という16歳までしか生きられない病気に罹った少女の思い出であり、そして、同じダフネー症に罹っているジジという少女の存在。純粋無垢なジジはアラタに懐き、シーザーにも好かれ神経質で口の悪いルイからは仕事をもらったりもする。過去、ルイにはダフネ−症の少女とパートナーになろうとして死なれた過去があって、それがずっと残ってシーザーとの関係を頑ななものにしていた。アラタは宇宙にあって資源の限られたコクーンで、間引きのように命を奪われるリストインの対象にされやすいダフネー症のジジが気になって、ターラと向き合えないでいた。

 そんな状況にあって、コクーン社会を支配する科学者たちの組織、天上人(テクノクラート)たちが動き始める。ネオテニイの始祖で天上人の長を務めるソウイチロウを曾祖父に持っていて、類い希なる才能の持ち主でもあるアラタを天上人に引き入れようと画策してつきまとう。アラタの知り合いで、宇宙船を駆って輸送を行っているリュカという男が、普段の仕事の中で気付いてしまったある事実は、天上人たちにとって禁断の知識だった。そのことに気付いていながらリュカを止められず、悲劇へと向かわせてしまったことでアラタはジジを治療し、ダフネー症を完治させるため研究から道を外れ、「君をしなせない」ための決断をする。

 地球に人類が住めなくなっていて、限りある資源を活用しながら宇宙で暮らしている状況で、どういった階層が形作られているのかを描いたSF的な想像力に溢れたSFコミック。人類を絶対的な高みから管理する存在があって、その思惑によって不要な命が間引かれ、断たれていくというディストピアめいた雰囲気もあって、そうした世界で生きている人はいったいどういった心理になるのかを考えさせられる。

 無能には生きている資格はないのか。従順こそが美徳か。能力がある者だけがすべてを知り、それ意外の者には世界の根幹に迫る知識を与える必要はないのか。管理され抑圧され、それを自然なことだと受け止めている社会に生まれたほころびが、これからコクーンを、人類をどう変えていくかに興味が向かう。どうして人類は遠くに行ってはいけないのかも。そもそも人類は今、どこにいるのか。地球はどうなっているのか。浮かぶ数々の疑問に答えが示される続きが今は心から待ち遠しい。


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