奇人の頭を叩いてみれば

 一時、大ブームとなりながらもその後、ちょっぴり潮が引き気味で、存在感が薄くなってしまったと思われていたケータイ小説。「小説家になろう」とか「エブリスタ」といった投稿サイトの台頭もあって、すっかり消えてしまっていたのかと思ったら、しっかりと残ってサービスを維持し、新しい作品もどんどんと生み出していた様子。

 そんなケータイ小説サイトの代表格とも言える「魔法のiらんど」から生まれた作品を表彰する「第9回魔法のiらんど大賞」の発表会をのぞくと、どういった人たちが今もケータイ小説、あるいは「魔法のiらんど」を支持しているかが分かる。受賞作家は女子ばかりで、集まっていたのも女子ばかり。そういうことだ。

 ご主人がいたりする世代の人もいれば、まだ10代の女の子もいたりと年齢は幅広いけれど、それでも女子しかいなかったのは、顔を隠して男性が女性として活動するには「魔法のiらんど」は難しい場所なのか、授賞式の参加にそういったレギュレーションがあったからなのか。いずれにしても、ケータイ小説というカテゴリーが、女子の求める女子のための女子による小説になっていて、だから活動するのもリアル女子ということになっている。そんな気がする。

 だったら肝心の小説はどうなっているのか。やはりベタベタならラブストーリーばかりなのかというとこれも違っていた様子。小説投稿サイトが読者のニーズもあってか異世界転生やら異世界転移ばかりに偏りがちなのに対して、今回、大賞を受賞した花子という人の「奇人の頭を叩いてみれば1」(魔法のiらんど文庫、590円)は、ラブコメ系ではあってもキャラクターに癖があって、パターンから少しズラしてあって、意外で驚きの展開が待っていてついつい読んでいってしまう。

 名を戸島彦(としま・ひこ)という、女子にしては少し変わった名前の少女が親の仕事の都合で転入した高校で、挨拶からしてどこか冷静で堅苦しく、とはいえ居丈高でもなく達観した風を見せてクラスメイとたちをギョッとさせる。思ったことは心に秘めずに言ってしまう性格で、相手から悪口を言われてもそれを受け取り、落ち込まず逆に同じだけの批判をして喧嘩両成敗といってのけるような性格が、クラスで嫌われたかというとそうでもなく、ちゃんと友人めいたものも出来たし、生徒会長をやっているイケメンからも関心を持たれた。

 そして、クラスでも問題児とされる5人組とも関わるはめに。暴れ出したら抑えが効かないイケメンの礼央という男子を中心に、弟の李央やその友人たちがグループを作って全校生徒から恐れられている。退学にならないのは理事長の孫だから。それを嵩に着て暴れ回るということはせず、気に入らないことはやらないといった態度で第2視聴覚室にたむろしている。そこに迷い込んだ戸島彦。ちょうど兄にからかわれるように服をはぎ取られた李央と行き会い、相手が怖い人の一味とは知らず困っているとみて服を探して届けてあげたら慕われた。

 その後、暮らすことになった寮に行ったら礼央を含めた一味がいて、彦とは同室らしい詩織という少女が部屋から出てこないのをどうにか誘い出そうとしていたけれど、その場は引き上げそして彦は寮も含んだ学校での生活を本格的に始めめて行く。まずは同室の詩織をどうするか。礼央と李央とは三つ子の妹らしい詩織だったけれど、部屋から出なくなった理由が分からない。どうも生徒会長にあるらしいと礼央や李央は踏んでいたけれど、確証はな、詩織も話そうとしない。そんあ詩織に彦は嘘をつけないまっすぐさで踏み込んでは、詩織にとってそれが結構なトラウマになっているらしいことを知る。

 一体何があったのか、といった辺りが恋愛が絡むミステリアスなストーリーとして続いていきそうで、そんな展開に詩織のことを思うけれども、乱暴さが抜けない礼央が彦を連れ込み脅迫用の写真を撮ったりして、どうにか画像のデータを取り返して逃げ出そうとする彦との間に悶着が起こる。そこでなぜか礼央の周囲のメンバーが彦に見方をしたのは詩織のことを思い、また彦が口だけではなく行動もまっすぐだということを理解したからなのかもしれない。

 そういう純粋さが、ワイルドな礼央を変えて恋愛に発展していくのが普通のラブコメだけれど、ヒネりがあって一筋縄ではいかないキャラクター造形を持った作品だけのことはあって、礼央はどこまでも直情的で野性味に溢れた人間で、言葉を換えれば単純莫迦で妹のことは強く思っても、詩織に対してそういった感情は抱きそうもない。とはいえ、純粋さでは負けない彼と彦とが諍いをしつつ、交わりながら学園で起こす騒動が、誰かを救うことに繋がっていきそうな予感はないでもなく、続きを読んでみたくなる。

 キャラクター造形では、相手が怖くても臆さず、女子に悪口を言われても辞さずに自分を貫き堂々と反論しつつ、相手をやりこめないで同じ土俵で勝負していこうとする彦という少女の痛快さも際立つ。超越的なヒーローではなく、脅されれば震えて落ち込むけれど、そこで諦めないで最善を探ろうとする。そんなキャラクターが、弱さに流れたくもなければ強さに溺れたくないと思っている女子たちの間で共感を呼んで、人気となって今回の受賞となったのかもしれない。

 190センチの巨体だけれど、心は優しそうで彦に関心を持っている李央がどういう態度を見せ、それに李央がどう絡んでいくのかも興味。あともう1人、謹慎中なのか出てこなかった礼央とつるんでいる男がどういう人間なのかも気になる部分。そうしたことが描かれるだろう続きを楽しみにして待とう。


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