学校にて門番を

 ライトノベルへの関心が高まる中、ライトノベル系の小説投稿サイトで人気の作品をそのまま引っぱってくれば、確実に読者のいる本を出せると語る編集長が率いるレーベルが立ち上がりそうな雲行きもあって、小説投稿サイトの存在が改めて注目を集めていたりするけれど、そうした人気のフィルターをくぐり抜けて登場してきた本ばかりになってしまって、本当に良いのかそれとも悪いのかといった迷いがないでもない。

 音楽ならランキングの上位に来ることでメディアが取りあげ拡散し、世に広まって大勢が耳するようになることで、なおいっそうの拡大を得られることもあるだろう。けれども投稿サイトの小説はネットの上でどちらかといえば閉じた系の中、限られた人数のアクセスを稼いだり失っていたりするものだったりする。そこでの人気がそのまま世間の人気へと広がっていくことは難しい。一方で人気の傾向を見てそれにすがろうとした挙げ句、同じ傾向のものばかりになるという“濃縮”が進んで、どれも似たり寄ったりのものになってしまう可能性がある。

 とてつもないベストセラーが生まれることもあるけれど、ひとつのジャンルを切り開いたりジャンルとまではいかなくても、新しいパターンを作り出すものはなかなか生まれてこないのではないか。そんな迷いも売れ行きであり人気といった絶対的な数字の前に折伏されてしまうのが、今の出版界を取り巻く厳しい現実というものなのだろう。そうした中で、かろうじて余裕のあるところだけが、新しさを求め発掘し育成し世に出して評判を問うことができる。

 その余裕がいつまで続くかは分からないけれど、今はまだ大ベストセラーを背後に持って挑戦し続けていられるのが、アスキー・メディアワークスの電撃文庫ということで、ここ最近は他のレーベルでめっきりと減ってしまった濃い設定のSFやファンタジーを出して、それぞれに地歩を築きつつある。あるいは新人賞の応募作から可能性を持ったものを拾い出し、磨き上げて世に問うことも続けている。古宮九時よる「監獄学校にて門番を」(電撃文庫、650円)は後者の1冊。読むとなるほど目新しく、そして面白い。

 物語といえば、ずっと地下室めいたところに引きこもっていたクレトという名の青年が、セーネ・ビエラという名の魔女のサポートを受けて暮らしていたけれど、いよいよ外に出ようということになり、セーネを通して各地から集めた求人に応募したら全部お断りされてしまった。それこそ99連敗を喫し、これからどうしようかと悩んでいたところに降って来た最後の封筒に、驚くべきことに採用の文字があった。

 それはクレトが自分で応募したものではなかった。そして監獄学校と呼ばれる場所で門番を務めるというもの。どうして学校が監獄で門番が必要なのか。そこは確かに学校で、若い生徒たちが勉強をしている場所。古人族、獣人族、竜人族、巨人族、羽人族という5種類いる種族でも上位の能力を持った者たちが、しばらく前に起こった戦争が集結した後、表向きは5族の融和を図るといった目的で集められていた。実態は特定の種族の力が突出し、戦乱に戻っては拙いといった理由から、強い力を持った者たちが強制的に隔離され、閉じこめられていた。

 だから監獄学校と呼ばれ、生徒たちがそこから逃げ出したり悪さをしたりしないようにする門番が必要とされていた。学生だから可愛げもあるだろうかといった甘い考えは通用しない。クレトが学校に着いて開いた門の向こうにいた生徒たちは、新しい門番をいじろうとして、魔法なり武器なりでクレトを攻撃して来た。下手したら死ぬくらいの攻撃を、それでもクレトはどうにかしのぎ、前の門番のように首だけ残していなくなってしまうような事態には陥らなかった。

 もっとも、夜になって可愛らしさとはまるで違った本気の攻撃もあったりして、何か裏で陰謀が巡らされているように感じさせる展開。一方で死ぬような攻撃を喰らってもしなず、あっさりと回復してしまうクレト自身にも秘密があるようで、さまざまな謎をはらみつつ監獄学園の真の意味と、そしてクレトの正体へと迫るストーリーが繰り広げられる。

   いったいクレトは何者なのか。それはだからあの人かも、といった予感をストーリー上で描かれる過去の回想から感じさせつつ進んで行った先。明らかになった真実が、意外な展開へと向かっていたりするのところがこの物語の巧みなところ。予定調和に落ちず、かといって突拍子もないところへとも向かわず、しっかりと納得のいく展開を用意してくれているから、驚きを得ながらも了解を覚え、そして先への期待を煽って来る。

 弱そうに見えて実は強いくれとだけれど、その強さの裏にあるある種の悲劇性がストーリーを貫き、世界設定を支えているのも、全体を上滑りさせない理由だろう。どこか入れ子細工のような舞台の構造も見事。これだけ入り組んでそして意外性のある作品を、よくぞ新人賞の応募作品から拾い出し、刊行へと至らせたものだと版元の眼力に喝采を贈りたい。

 続きはあるのかは分からないけれど、呪いは未だ解けておらず、そして意外な人物も現れ物語は本当の集結へと向けて動き出しそう。その完結を見届けたい。誰もが笑顔で監獄学園の外に出られる時が来ることを待ち望んで。


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