出雲新聞編集局日報
かみさま新聞、増刷中。

 カナディアングリズリーが探偵事務所の所長を務めている小説が、前にあったような記憶はあるけれど、猫が新聞社の編集局長に収まって新聞を発行している小説も希なら、それが神様相手の新聞だというのもちょっと珍しい。というより世界初? そもそも神様相手の新聞ってなに? その答えが知りたかったら霧友正規の「出雲新聞編集局日報 かみさま新聞、増刷中。」(富士見L文庫、600円)を読んでみよう。

 関東の出身で東京都内の大学に通っていながら、マスコミ業界に興味を持ち、日本一小さい新聞社だからと興味を持って受けて合格した、出雲にあるという出雲新聞に入社した桜庭悠馬という新人が、会社に初めて行くより前に出雲に移住し、周囲を散策していたらそこにいたのが動物たちに囲まれている青年だった。

 なにごとかと思って近寄ると、その青年からお前はこの動物が見えるのかと聞かれ、実は動物たちは神様なんだと教えられ、そこで落とした財布を神様たちの力を借りて拾ってもらう。驚いたものの信じるしかない不思議な事態。そして倉間恭平という名だったその青年が、同じ出雲新聞の社員だと知った悠馬は、恭平に連れられて、出雲新聞社にある編集局へと連れて行かれる。

 そこにいたのはひなたぼっこする1匹の猫。恭平はその猫を妙にかわいがるというか、どちらかといえば下手に出るようにして甲斐甲斐しくお世話をする。そして悠馬は知る。その猫は神様で、そして出雲新聞にある編集部ならぬ編集局というところの局長で、「かみさま新聞」というのを発行していて、神様相手に記事を書いて配っているのだということを。

 印刷したものなのか、霞のようなものなのか、思えば伝わる念波なのかは分からないけれど、ともあれ神様に関するニュースが書かれて新聞が存在していて、それが発行されていて、恭平たちによって作られている。悠馬は入社してすぐにその「かみさま新聞」に配属されて、最近はちょっぴり売上げが落ちている部数が持ち直すよう、神様が喜ぶ記事を考え書くように命じられる。

 別にしっかりと編集部があって、普通の人向けの新聞も発行している出雲新聞に入社が決まった悠馬を、最初から神様が見える体質だと知って採用し、猫の神様がが編集局長をしている部署に配属し、「かみさま新聞」を作らせるつもりだったのかどうなのか。そこは判然としないものの、本紙の編集長も含めて幹部はどうやら猫の神様の編集局長のことを知っている様子。採用にあたって悠馬に何か能力を感じていたのかもしれない。

 そんな期待に応えるように、新人ながらも頑張って取材をしては神様たちが喜びそうな記事を集めに走る悠馬。神様が楽しみにしている祭りのお菓子を作っている和菓子屋が、後継者に悩んでいると聞けば行く面倒を見つつ、その顛末を記事にし、地元の女子校の剣道部員で全国大会に出る実力の持ち主に悩みが生まれれば、行って導きつつやっぱり顛末を記事にして、そこに介在した神様たちの活躍ぶりを紹介する。

 もちろんただの新人で、ひとりでは壁にぶつかることもあるけれど、そこを熱意とそして神様たちの支えも受けて突破していくストーリー。そこから浮かぶのは神様もやっぱり自分達の存在を見てもらいたいということ。知って欲しいと願っていること。

 人に信じられることで存在し、人を思うことで存在し続けられる神様というものが、だんだんと疎んじられている状況が現実にはある。それでも世界は回っていくけれど、でもやっぱり人間だけではギスギスしてしまうこともある雰囲気を、重畳的な力でかき混ぜ前に進める力を神様は持っている。そのことを改めて思い出させてくれる物語。頼ってみよう、すがってみよう。そう思わされる。

 神様であっても猫に過ぎない神様と、恭平しかいなかった「かみさま新聞」の編集局。恭平はほかに特技はあっても、記事はまったく書けなかったというから、どうやって新聞は発行されていたのかが気になるところ。ともあれ空いていた穴を埋めるように悠馬は頑張り、難問を解決し、神様に活躍の場を作ってそしてそれを記事にしては神様たちに喜ばれ、「かみさま新聞」はどうにか部数を持ち直す。

 最後まで神様たちが新聞をどうやって受け取り、どういう風に読んでいるかは分からないけれど、売れているというからには売れているのだろう。そんな追い風の中で念願の、けれどもちょっぴり相手が違った記者として何かを伝える仕事を始めた悠馬に、次はどんな仕事が舞い込むのか。取材を通じて仲良くなった、凜として女子からの人気が高い剣道少女との関係は進むのか。出雲といえばそこに建つ大社にいるものすごい神様はどんな姿をしているのか。浮かぶ興味を知りたいからぜひ、出して欲しいその続き。もちろん「かみさま新聞」としてではなく、人間が読める物語の形で。


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