Gun Princess The Majesty
銃姫1

 魔法を弾丸に変えて発射する。といったギミックだったらアニメーションでは「星方武侠アウトロースター」を思い出すし、小説でも浅井ラボさん「されど罪人は竜と踊る」のシリーズが思い浮かぶ。一方で街ひとつ吹き飛ばして余りある力を秘めた存在が、その力への葛藤を抱きながらも宿命を背負って前へと進むストーリーなら「トライガン」あたりを先陣に幾らでも挙げられる。

 そんな既視感のギミックとストーリーに彩られた高殿円の「銃姫1」(メディアファクトリー、580円)が、だったら過去にある物語からデータベース的に設定や物語を組み合わせ、キャラクターの味をまぶして仕上げたものかというと、決してそうではない。繰り広げられる人の心の奥底にある憎しみの気持ちの恐ろしさを暴き、それでもそうした感情を御して人間が生きていけるすばらしさを描いている物語は、先人たちの作品などを気にさせることなく、抜群の面白さで読む人たちを引きずり込む。

 とある宿。姉というエルウィングーの胸元に知らず顔を埋もれさせていた少年セドリック(羨ましい!)が目覚めると、そこには連れだって旅をしているアンブローシアという名の少女が立って般若の形相。言い訳をしても直情径行形のアンに言い訳は利かず、一悶着あったあとでようやく宿を出た3人は、とある街へと立ち寄りそこでペチカとゆー名の少女の世話になる。

 かつて誰もが使えた魔法の力が神によって奪われて久しい世界では、魔法を使うためには魔法の力を込めた弾丸を銃によって発射する必要があった。セドリックもアンブローシアもそうした魔法の弾丸を発射する銃を扱える魔銃士で、シスターのエルといっしょにオリヴァントという天才魔銃士と、彼が奪った世界を滅ぼす力を持つという<銃姫>を探して旅をしていた。

 ペチカと出会った街はそんな旅の途中で寄ったもの。そこで3人は、苦役を押しつけて来る市長に異議を唱えようとした父を、市長に殺されたばかりのペチカが密かにめぐらせていた復讐に、利用され巻き込まれてしまうことになるが、裏切られたと憤ることなく、逆に純真な気持ちから出たペチカの暴走を止めようと、それぞれが持ち前の能力を発揮して活躍する。

 憎しみが災厄をもたらし力が世界を破滅に導こうとする中で、人を想う気持ちが放つ輝きが光明をもたらす展開が、読んで胸に慈しみをもたらす。悪魔のように人の心に潜む憎しみを浮かび上がらせて歩くオリヴァントの跳梁はまだまだ続きそうだが、その都度3人の力が世界の歪みを取り除き、正していく物語を楽しめそうだ。

 人を癒す歌を唄うのが仕事のシスターでありながら、すさまじいばかりの音痴で唄うと癒されるどころか患わされる人も動物も続出。山野で唄えば銃も弓矢も使わずに鳥やウサギが捕れてしまうという、歩く電磁波娘でありながら、一方でオリヴァントも畏敬の念を示す力の持ち主というエルウィングの存在。快活な性格で、魔弾砲を操り高い戦闘力を発揮するアンブローシアに秘められた、恨みと憎しみに彩られた悲しい過去。見た目は天然ボケの巨乳に勝ち気な貧乳とこれも過去によくある構図ながら、裏側にある設定やドラマが物語に深さを感じさせ、これからの展開へと興味を引っ張る。

 そしてセドリック。強烈無比な2人の女性に挟まれ今ひとつ目立っていないが、実は誰よりも強大な力と秘密を持った彼がオリヴァントの闘いの中でどう成長し、どう本領を発揮していくのか。エナミカツミの描く生き生きとしたキャラクターたちのイラストともども、続きが楽しみで仕方がない。


積ん読パラダイスへ戻る