異世界帰りの俺(チートスキル保持)、ジャンル違いな超常バトルに巻き込まれたけれどワンパンで片付けて無事青春をおくりたい。

 「この中に、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさいっ」と言ったのは、東中から北高に入学してきた少女だったけれど、正直に名乗りを挙げる宇宙人も未来人も異世界人も超能力者もいなかったのは、決して存在していなかったからではなく、世界を改変するくらいの能力をもったその少女に存在を知られて、好奇を抱かせてはいけないと考えたから、といったところだろうか。

 実際、宇宙人や未来人や異世界人や超能力者が、それは自分だと名乗りを挙げて得なことがあるかといったらあまりなく、好奇の目にさらされたり、所在が追っ手に分かってしまったりして大変な目に遭うことの方が多そう。あるいは信じてもらえず、ちょっと変わった人として敬遠されかねないとい。

 「韻が織り成す召喚魔」のシリーズでデビューした法真代屋秀晃の最新作となる「異世界帰りの俺(チートスキル保持)、ジャンル違いな超常バトルに巻き込まれたけれどワンパンで片付けて無事青春をおくりたい。」(電撃文庫、630円)に登場する主人公の桐原武流でも、その異能をおおっぴらに誇ることをしなかった。

 異世界に召喚されて魔獣たちを蹴散らし、さらわれた姫を救出し、復活した破壊神に挑むこと153回を経て倒してしまった英雄が、名乗れば誰もが讃え感謝しただろう。けれども異世界で誇らず、元の世界に戻ってもその能力を隠して武流は暮らしていこうとしていた。なぜなら平穏が欲しかったから。当たり前の高校生活に戻りたかったから。

 長く召喚されていて、時間も経ってしまったと思ったら、召喚された時に戻され引き続き高校生活を営めることになった武流は、ずっと空気のような存在だったのが、異世界で鍛えられ多少も自信がついたのか、学級委員に立候補するという挙に出る。もっとも、それまでの態度から相方には幼なじみの朝倉奈々子くらいしか名乗りを上げず、生徒会の仕事もあった幼なじみが辞退した後は、くじ引きで相方が決められた。

 それもまた残酷な話。そこで異世界から持ち帰ったチートなスキルでも見せればモテモテになるかというと、気味悪がられるだけだろうから隠したままの武流。くじ引きの結果、クラスでもひときわクールな雛代紗姫が同じ学級委員に選ばれたものの、会話などはずまず、話しかけてこないでといった拒絶すら示される。

 願っても訪れない平穏な高校生活。しかたなく武流は居場所を求めて文芸部に入部すると、美山崎葵というギャル系の部長と、外国出身らしいマリー=ルイゼ・ファン・アストンクラウという名の下級生がいる文芸部にどうにか居場所を得た帰り、街で紗姫が炎を扱う超能力者を相手に戦っている場所に武流は居合わせてしまった。どうにか相手を倒した紗姫は武流に気付いて驚き、そして倒し切れていなかった敵が炎を武流に浴びせても彼が平気だったことに驚く。

 同じ超能力者だと信じ込み、そして超能力者を束ねる組織があって、属していない能力者は追われる運命にあるから、もうこの街に自分も貴方もいられないと告げる紗姫に武流は、せっかく戻ってきた平穏を壊したくないと、異世界で得たスキルで組織をぶっ潰して自分にも紗姫にも居場所を与える。

 監視する必要があると文芸部に入ってきた紗姫と2人で、内緒の超能力を駆使した戦いが始まるのかと思いきや、文芸部にはまだまだ不思議な人たちがいて、平穏を求める武流を驚かし脅かしていく。政府機関いよって作られたサイボーグに退魔師を母親に、ヴァンパイアの王を父親に持つハーフヴァンパイア。それぞれの事情で戦い続ける少女たちの居場所を、お互いに知られないようにしながら武流が圧倒的な力で取り戻していく。

 超能力者にサイボーグにヴァンパイア、そして異世界返りのチートスキルを持った元英雄が集まった文芸部に、ハルヒだったら喜んで入りそうだけれど、名乗りは上げてないから気付かれない。部員どうしも正体は明かさず力をひけらかすこともなく日々を送っている。そうした中、それぞれが抱えた事情が明かされ、直面している問題が示され、それを武流だけが知っていく展開が面白い。

 超能力者もサイボーグもヴァンパイアも、それぞれが自分たちは強く襲撃する敵も強いと思っているにもかかわらず、あっさりと退けてしまう武流の凄さが痛快。異世界こそがやはり人間を最強にする? というか超能力やサイボーグやヴァンパイアの存在は信じても、異世界なんてあり得ないと言う少女たちの認識もまた面白い。

 途中、単なる中二病の少年が近づいてきて、本当の日常が得られるはずだったのに周囲が周囲だったこともあって、疑っては逃げられてしまったのは残念。もっとも、ひとりただの人間が混じったところで、絶えずトラブルが起こる中で生きていくのは大変だったかも。早めに離れられて平穏に戻れて正解だった。それを望んでいた武流には悪いけれど。

 クライマックスでさらにひとり、異能の持ち主が現れ武流に絡んで来そうで、物語が続けばほかにもいろいろな異能の持ち主がそれぞれの事情で戦っていては、武流に関わって来るかもしれない。中には武流の平穏を脅かすような強大な敵もいるのか。そこは絶対に諦めない心を持った武流が、とてつもないスキルを加えて立ち向かっていくことになるのだろう。そうした苦心も絡んでのチート展開を楽しみたい。

 そうやって、異能の持ち主たちと偶然にも行きあって助けていった先、武流の周囲にはどれだけのアベンジャーズなハーレムが出来上がるのか。そして互いの能力を黙ったままで武流をハブにして活躍し続けられるのか。そうした差配も含めて続く展開を気にしたい。続くならだけど。


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