虐殺機イクシアント  巨甲闘士グランアース

 秋田禎信による「虐殺機イクシアント」(富士見書房、1600円)と、神坂一「巨甲闘士グランアース」(富士見書房、1600円)は、シェアードキャラクター&シェアードシチュエーションとして企画された作品らしい。同じ世界観を舞台に多方面から様々な作家がアプローチしていくシェアードワールド作品なら過去に幾つも企画されているけれど、キャラと設定だけ作ってそこから自在に話を組み立てていくのはあまりない。手塚治虫が漫画で用いたスターシステムの変形と言えば言えるのかもしれないけれど、複数の作家で新規に立ち上げるのはやはり珍しい。

 そんな「メックタイタン ガジェット」と銘打たれた「虐殺機イクシアント」と「巨甲闘士グランアース」の2つのシリーズは、巨大ロボットを登場させることを設定上のメーンに据え、宮龍院シアという名の少女とその父で権力財力を持った宮龍院ダイスケ、マッドサイエンティストにして稀代のセクハラ野郎という獅子ヶ崎ガオウをメーンキャラクターとして用意して、シアが巨大ロボを操り敵と戦うストーリーをそれぞれに描き出す。

 秋田禎信が選んだ舞台は宇宙。そこで宮龍院シアは星系を仕切る一族の令嬢ながら、衰退著しい権勢を取り戻すため、父のダイスケに引きずられる形で前線へと引っ張り出され、イクシアントいう名のロボットに乗せられ前線へと送り込まれる。ダイスケにとってシアの栄達こそが一族のためにも、星系のためにも絶対必要なこと。そんな彼女に戦果を挙げさせるために、周囲が犠牲になることも厭わないダイスケの采配を身に感じて、立つ瀬も行き場もないシアの辛さがにじみ出てくる。

 そんなシリアスな心情描写を緩和するのが、獅子ヶ崎ガオウという科学者の圧倒的なセクハラぶりで、口を開けば胸元に穴が開いたスーツを着たかと尋ね、コックピットでは座るシアの股間部分にモニターを作っていろいろと語りかけてくる。鬱陶しいけれども彼の開発したイクシアントがなければ、シアも彼女の勢力も敵に負けていた。先を読んでしまうことすら可能な装備、そして人工知能が搭載されて迎撃を交わして攻撃してくるミサイルを相手にした戦いを可能にする挙動。SF的なアイディアが盛り込まれていて楽しめる。

 それでも根っこはシビアでシリアス。仲間を生贄に差し出してでも活躍を求められるシアにつきまとう悲運と悲劇の色彩は、獅子ヶ崎ガオウ博士のセクハラ程度で拭えるものではないし、勝てそうもないと分かった段階で、戦艦がフィールドを暴走させて周囲にいる敵も味方も焼き尽くすという攻撃の戦術上の無慈悲さは、負ければおしまいという戦争を生き抜く大変さを示す。ありがちかもしれない美少女による巨大ロボット物という設定を自らに与えつつ、それを超えていこうとするスタンス。流石はベテランの妙味と言える。

 そして神坂一の「巨甲闘士グランアース」も、案外にシリアスなところがあって驚かされる。なるほど「スレイヤーズ」の神坂一が書く以上は、ロボットを操縦する宮龍院シアも、その友人たちも賑やかだし、こちらでは名前が漢字となる獅子ヶ崎咆吼博士のセクハラも度合いが派手で騒々しい。それでも異世界から襲ってくる敵のロボットは街もビルもなぎ倒し、その過程で大勢が死んでいるのだろうとシアに思わせる描写がある。戦場に幸運はないし偶然もない。だからシアはロボットに乗り込み戦わざるを得ない。他に敵を倒せるロボットがいないのだから。

 いずれ異世界から敵が襲い来るのを博士もシアの父の大輔も知っていた。だから用意してあったロボットをシアに与えて立ち向かわせた。どうして彼女が? という理由が、だから主人公だからという理由に還元されてしまうところは一種お約束だけれど、それを超えれば彼女だからこそ悩みつつ迷いながらもグランアースを使いこなし、敵を退けていけるのだと思えるようになる。ヒロインとはそういうものだ。

 高速で迫る武器なり兵器は、「フレキシブル・ガーダー」と呼ばれるロボットの周囲に張られたシールドのようなものが粉みじんに切り刻むという敵ロボットの装備のアイディアが巧く、戦闘機やミサイルといった通常兵器ではなかなか立ち向かえず、ロボット同士のバトルをメーンにせざるを得ないようにし向けてある。そこに急速に迫りゆっくりと近づく落下傘つきミサイルを降らせるといったアイディアを繰り出してみせる辺りにも、進化する戦闘の醍醐味があって楽しめる。

 両作品ともロボットアニメの初期の戦いといった展開で、ここから先にどういったストーリーがあるのかを気にさせる。「巨甲闘士グランアース」で敵はいったん退いたものの戦いはこれからも続きそう。「虐殺機イクシアント」でも同様に戦争はシアたちが政権を盤石にするまで続けられる。そうした展開が果たしてシリーズ化されていくのか、あくまでもひとつの“お題”にベテラン作家たちが出したひとつの答えとしてこれで打ち止めとなってしまうのか。別の誰かが同じキャラや設定を使って違う話を書こうとするのか。

 分からないけれどももし仮に、「虐殺機イクシアント」なり「巨甲闘士グランアース」がシリーズ化されるなら、いずれも相当にシリアスだったりテクニカルな展開が期待できそう。それだけに読んで見たいのだけれど果たして。願うならこれで終わらず続いて欲しいもの。無理矢理にセクハラも覚悟でロボットに乗せられたシア“たち”に、解放され平穏に生きる道を歩んで欲しいから。


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