いちばんっ!!

 必殺パターンまっしぐら。と、言えば言えるのかも知れない東城和実の「いちばんっ!!」( 第1巻、第2巻、幻冬舎コミックス、各540円)は、スポーツ漫画の幾つかある必殺パターンのうちでも、人気があって効果も高いひとつを丸まるなぞっていて、読めば納得の楽しさは保証されている。

 主人公は熱血系の男子。名を神崎宏武という彼はとにかく負けず嫌いで、おまけに日本征服が願望という馬鹿野郎で、子供の頃から三輪車で町内一周に出かけては破れ、煙突に上っては迷惑がられ、ゲートボールでは婆さんに負け卓球は台から頭が出ずにいずれも敗北するという体たらく。にも関わらず自分が1番だと信じ、幼なじみのまゆを相手にいつか日本を征服すると大言壮語を繰り返す。

 そんな宏武がコンビニエンスストアで不良相手に暴れた時、店員に最初に暴れたのは宏武だと告げ口をしてエロ本を読み続ける陰険さを見せた男子が、すぐ後に登場しては宏武とバドミントンで同じチームを組みながらも、ライバルとして反目し合う関係になる。

 名を安曇隆之という男子と武の関係を例えるならば、天才バスケットボールプレーヤーの流川に素人の桜木がつっかかり、バスケットボールを始めた挙げ句に天才になってしまう「スラムダンク」とほぼ共通。必殺パターンをなぞっているというのはつまり、日本を巻き込むベストセラーとなったスポーツ漫画の形式を、ほぼ取り入れていることに起因する。

 もっとも「スラムダンク」が人気のバスケットボールをテーマにしているのに比べて、「いちばんっ!!」がテーマにしているのはバドミントンという世間一般にはマイナーで、漫画にもかつてあまりなったことのないスポーツ。その意味で、必殺パターンで物語が引っ張られていく中で、バドミントンがどういったスポーツなのかを分からせるという啓蒙的な役割も「いちばんっ!!」は持っている、かもしれない。

 戻って物語の方を説明するなら、邪見にされたことを逆恨みしつつ、まゆが熱を上げるくらいに格好良い姿に嫉妬しながら隆之に挑んだ宏武だったが、日本でもトップクラスの実力を持ちながら中学時代に怪我をして1年を棒に振り、バドミントンの強豪校に進学することを止めて宏武と同じ学校に入って弱小のバドミントン部でただ1人、真っ当な腕前を振るっている隆之を相手にかなうはずもなく、コテンパンにしてやられる。

 もっともそこで諦めないのが自称天才の大馬鹿野郎。監督を務める女教師の甘言にも誘われ相手を叩き潰すなら同じ部内でとばかりにバドミントン部に入部して、宏武は隆之への挑戦を始める。そんな宏武の熱血ぶりが、才能を持ちながらもそれを発揮しないで斜に構えて生きている隆之の気持ちを高める材料になるのではと考えた、隆之とは曰く因縁のありそうな監督の女教師の企みもあって、かくしてド素人の宏武と、真の天才の隆之が組んだペアは、隆之が行くはずだった強豪校との試合に臨む。

 宏武のような変人の極みとも言える人物が主人公となり、まゆのように隆之に真っ直ぐ脇目もふらずに恋心を燃やす妄想も少し入った女子が出てくる構造は、傑作漫画「黒いチューリップ」を始めとする東城和実に独特のキャラクター配置。頭を抱えたくなるような不思議なキャラクターが繰り広げる言動に胃をかき回されたい人には、うってつけの作品と言えるだろう。

 バドミントンの描写についても、杓文字を大きくしたような軽いラケットで気軽に羽根をつきあっているように見えて、あれでなかなかに前後左右の動きが激しくて、とてつもなく疲れるスポーツだということを、素人の神崎につきまとわれて迷惑な隆之がシャトルを自在に操って、ヘトヘトに疲れさせる描写によってリアルに表現していて、やった経験のある人には実感をもたらし、やったことのない人には興味を与える。

 バラバラで反目していた宏武と隆之が当然ながら強豪校相手にコテンパンにされ、そこから密かな友情を育み再びの強豪校相手の試合に臨み……といった展開もまた必殺パターンではあるけれど、そこを打ち破り次なる敵を見つけて挑み成長していくスポーツ物に憑き物のインフレーションに陥らず、ひと山越えるか越えられないかの段階で終わっているのが、寂しいものの不思議とさわやかな余韻を感じさせて、読んでどこか心地良い。欲を言えば美女でナイスバディで1巻ではパンツまで見せてる監督にはもっと活躍して欲しかったかも。「監督」とだけで名前もないままの”引退”は可哀想過ぎるから。


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