放課後レクイエム 真名事件調査記録

 実は男装の美少女かもと、期待していたらそうではなくてガックシきた人もいれば、紅顔の美少年と荒くれな少年との交流に、そこはかとない美学を見出す人もいそうな、鹿屋めじろによる第8回C★NOVELS大賞樹霜作「放課後レクイエム 真名事件調査記録」(中央公論新社、900円)は、真名(しんみょう)という「名字」の元に異能の力を持った一族が古くから、幾つもこの社会にあって、ずっと続いていきたという、架空の歴史を持った日本が舞台の異能伝奇バトルだ。

 狭山の方で少年が怪我を負って、それにどうやら真名の力が関わっているらしいと伝え聞いて、そうした真名の力を取り締まる「組合」という組織が立って調査要員を狭山へと派遣する。そのうちの無名壮源という少年は、地元の高校に入って何か起こっていないかを探ろうとして、そこに、かつて自分がその地域に住んでいた時に仲良しだった、向井円という少年の顔を見つける。

 これがなかなかの美少年。そして幼なじみかもとう関係にドキッとしたら、何と今は夢殿という名字らしい円は、無名のことなど知らないし、かって向井という名字でもなかったと言って、無名を真っ向から拒絶する。それでも興味を持った無名は、夢殿がふらついている場面を夜に住居の窓から見て、後をつけて彼が異能の力をつかって誰かと戦っている場面に行き当たる。

 どうやらネット上で組織されたバトルがあって、真名を持つ者たちがトーナメントのように戦っては、勝利を掴んで夢を叶えようとしているらしい。無名たちが動き出すきっかけになった少年の怪我も、そうした戦いの中で起こったものと判明して、「組合」による調査は一件落着、あとは関係者を摘発して終わりかと思ったものの、そうは行かなかった。

 渡部という名の無名の相棒が、かつて狭山で起こった「よみがえり事件」に興味を持ってそちらの調査に没入。一方で、無名も山奥のバトルで両腕を火傷して日常生活もままならなくなった夢殿を放っておけないと、彼の家に上がり込んで世話を始め、その後も続いているトーナメントの立会人も務めるようになって、近づく決勝のための準備を進めていく。

 いったい何が夢をかなえてくれるのか。それは誰の力によるものなのか。土地の恩恵という単純な現象ではないと解り、背後にあった誰かの企みが浮かび上がり、それがかつての「よみがえり事件」と重なった時。真名の力を持つことの大変さと、それを受け入れ御して生きていく大切さが見えてくる。気軽に力は振るって良いものではなく、無理をすればどこかにひずみが生まれるものなのだ。

 かくいう無名も、その名字が示すようにある真名の力を持っていて、その力がクライマックスで発動されて、ひとりの少年が後悔の果てに望んでいた壮絶な事態をぶちこわす。その力の種類は、鎌池和馬の人気シリーズ「とある魔術のインデックス」に出てくる上条当麻のイマジンブレイカーに似た雰囲気。使い方によっては最強ではあるけれども、やはり物理的な攻撃を跳ね返すだけの力はなさそうだから、誰よりも強いという訳ではない。

 もっとも、無名は上条当麻のように「不幸だぁー」とは叫ばず、けれども上条当麻と同じように健気に夢殿の面倒を見る。そこに、少女のような少年を愛でるショタ的な、あるいはBL的なスピリッツが漂いファンを引きつけることになりそう。だから、シリーズ化されてもだから夢殿円にはずっと登場し続けてもらわなくては。

 一方で、日ごろはツンケンしている火ノ宮明日香という少女のキャラクターも登場して、願いを叶えるトーナメントでは、炎を操る真名の力を発揮してそれなりの強さを見せていたりして、気丈な美少女として男性ファンの関心を引きそう。もっとも彼女、神社の娘で若くして許嫁持ちだった。それも親が決めたという条件に反して、自分の能力をその許嫁に言えず、隠して悩んでいたりする惚れっぷり。そこが可愛いいけれども既にして高嶺の花。だから続きがあれば今度はフリーの女子をもっと沢山。投入を。


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