ヒーローの秘密

 バスタオルが1枚あれば、男子だったら下着だけ、あるいは下着すら身につけてない状態でも、荷物を届けに来た宅配便を受け取りに、ドアを開けることは可能だ。けれども女子だったら、バスタオルを腰に巻き付けた上で、上半身にセーターの1枚でも着なければ、人前にはなかなか出られない。出て欲しい気もするけれど。

 なおかつ女子は、セーター1枚を着た体で、背筋を伸ばして応対に出ることはかなわないらしい。おそらくは突き出るだろう胸部の突端を、配達員に見られる気恥ずかしさがあるからで、そのためにやや前屈みになって、荷物を受け取るらしいということが、今村陽子の「ヒーローの秘密1」(少年画報社、619円)に描いてあった。勉強になった。

 ところで、そのセーターがVネックかUネックだった場合、前屈みはセーター越しの尖端は見せない代わりに、谷間を直接相手の目に触れさせることにならないか、といった想像も浮かぶ。そのあたりの回答が、今後の展開で得られるかどうかは分からないけれども、男子には分からない女子の秘密につていは、他にもまだたくさん、「ヒーローの秘密」には描かれてあるから、読んで学ぼう。役立てる機会はなさそうだけれど。

 逆に女子にとっても、男子ならではの大変さが、感じ取れるこの「ヒーローの秘密」。というのもこの話では、男子中学生が女子になり、逆に女子が男子になったりするようなトランスセクシャルがメーンのテーマになっていて、そうなった男子なり女子が、女子賭してあるいは男子として感じ見て経験する様々が、繰り出されてはそういうものなのかと読む人を驚かせ、興味を誘う。

 ご町内を守る戦隊ヒーローの「一番星マン」に憧れた男子中学生の桃瀬かなめが、募集広告を見て事務所に行くと告げられたのは募集はピンクだけという話。そこで諦めようとしたのかそれとも粘ったのか、騙されたのか説得されたかで、かなめはピンクになることを選ぶ。結果、日々は男子中学生をしながら、敵のブルト星人が攻めてきた時には変身して女子となり、ピンクとなって戦うことになってしまった。

R  まず自身として、男子とは違う快楽のポイントがある女子の体に戸惑うかなめ。瞬間にピークを究める男子とは違って、こすられたりつつかれたりしながら、次第に気持ちを高めていく女子ならではの状況が、いったいどんなものかと、想像を惹起させては関心を引きつける。そして同性として、ホワイトであったりレッドであったりといった仲間の少女たちとの交流から、白い水着は透けやすいから、下にもう1枚、サポーターのようなものを身につけるべきだといった、女子ならではの振る舞い、苦労すべきポイントなどを教えられる。

 レッドが女子? という疑問がここで浮かぶ。多く場合、戦隊ヒーローでレッドは男子のリーダーが受け持つことになっているからだ。ではなぜ女子か。それはピンクを務めるかなめとは逆に、レッドになるはずだった兄の失踪で、代わりにレッドになるはめになったからで、バングルを着けて変身しては、脚と脚の間にある器官をどう収めるべきかを悩んだりする。

 普段は小さいものが時に大きくなってそそり立つ。ゆるんだズボンの前を押し上げ、周囲に存在を意識させる。案外に周りは気になっていなくても、当人はその貼り具合とともに何か大変なことをしでかしているのでは、といった悩みに苛まれる。そこで生来の男子なら、収めるための思考方法を持っているのだけれど、にわか男子ではそれはわからず、むしろよくない妄想がかえって硬さを増幅する。

 生来は男子のピンクからグッドなアドバイスが飛んで、そうかそういうものなのかという思いを読者にいるかもしれない女子にあたえる。一方で男子は、かなめのピンクとして身悶え懊悩する日々から、女子とはそういうものなんだという納得が得られる。相互に学び合って確かめ合える、保健体育系の学習漫画としての側面を、「ヒーローの秘密」は持っているとも言えるかもしれない。

 男子としての快楽を、究める間もなく女子のピンクになってしまったかなめにとって、そこで得られる快楽はほとんど初めてにして頂点に近い。一方で女子としてやっぱり快楽の究めた訳ではないレッドも、男子となって起こるさまざまな生理現象が招く快感に、溺れはまっていこうとしている。そんな2人が変身した姿で向き合った時にわきあがる情感が、2人をどこへ連れて行くのか、本来の性とは違う場所に身を据えて、互いを感じ合うような方向に向かうのか。肉体が左右する心のあり方についても考えさせられる物語だ、ということにしておこう。


積ん読パラダイスへ戻る