始まらない終末戦争(ラグナロク)と終わってる私(ウチ)らの青春活劇(ライブ)

 エロゲーとか美少女ゲーとかやらないと、田中ロミオや麻枝准が、そちらでどれだけ凄いシナリオライターだったのかは知らないまま、ライトノベル作品の「人類は衰退しました」シリーズや「AURA 〜魔龍院光牙最後の闘い〜」を読んだり、アニメーションの「CLANNAD」や」「Angel Beats!」を見て、その文体に惹かれたり、そのストーリーに泣いたりしている。

 そういう方面からでも田中ロミオと麻枝准の2人とも、とてつもないクリエーターだと分かるし、だからエロゲーや美少女ゲーの世界から、そうしたとてつもないクリエーターが出現して来ることが、別に不思議でも何ともないとも分かる。

 王雀孫、という名前も、そうしたエロゲーの世界で広く知られた名前らしいけれど、同様にそちらでの活動はまったく知らずに読んだライトノベル「始まらない終末戦争(ラグナロク)と終わってる私(ウチ)らの青春活劇(ライブ)」(ダッシュエックス文庫、600円)が、もう変態的に素晴らしくてグイグイと引っぱられて、最後まで一気に読まされてしまった。

 それだけに、いったいどういうテキストを、エロゲーの方で書いているのか気にさせられるけれど、そちらを試してみるには時間もマシン環境も足りていない。ただ、先例を踏まえるならば、ゲームの世界でも素晴らしい世界を築いているものと思って良さそう。いつか時間が出来たら、そしてマシン環境も整ったら挑んでみよう。どのゲームから始めてみるのが良いのだろうか?

 とはいえ、まずはライトノベルの方から。鞠弥という名のギャルをやっている妹がいる兄の有田雁弥が、通っている高校へと向かう駅で、とてつもない美少女に出会い、話しかけられる。名を新田菊華という、高校の上級生らしいその少女が顔に似合わず(美少女が真っ当というのも偏見だけれど)どこか妙。軍隊口調とも上官口調ともつかない言葉を使い、何かネットと接続していて、そこからデータを検索しているような設定をさらして雁弥に迫ってくる。

 いっしょにいた鞠弥がしきりに、雁弥のことを友人ゼロだといったりしたのが何か心に引っ掛かったのか、そうした境遇に落ち込みもせず、開き直ったように生きている雁弥の態度が気に入ったのか。学校に登校して教室でひとり仮眠をとっていた雁弥のところに、菊華を部長としていただく演劇部の2年生、真知子という名の、これも徹底したギャルがやって来て雁やを部室へと誘う。そして…。

 もうその展開からしてどこか変態的。やって来た真知子のギャル口調に憶さず、合わせて突っ込み返してみせる雁弥のコミュニケーション能力。ただの人嫌いでも人見知りでもなさそうな、それでいて一人でい続ける不思議な雁弥のキャラクター性が浮かび上がった上に、それを怒りもせず気にもしないでやっぱり話を合わせるように、雁弥を席から動かし演劇部へと連れて行く真知子の言葉の鋭さよ。噛み合わなくても面白く、むしろスリリングな会話芸というものを見せられる。

 ただやっぱり、雁弥というキャラクターの不思議さがどちらかといえば濃く浮かんで迫ってくる。何が起こっても動じないで、戯れ言のように受け取り、受け入れながらひらりひらりとかわし、こなしていく雁弥の生き方がどこか格好良く見えて仕方がない。ひとりぼっちなのに、それを寂しくも悲惨とも覆わせない悠然ぶり。学校階層における最下層でも負け組でもない、自分をしっかり貫きひらひらと生きていく、個性の強さがそこに見える。そして好きになる。そのキャラクターを。

 キャラクターではそして、OSを入れ替えると喋りが変わり、人格も変わるという設定を自分に入れている演劇部の部長の菊華が、相変わらず妙ちきりんだし、雁弥とはクラスメートで、雁弥も気にはなっていたものの話しかけられなかった河和若葉という少女の、いつもあたふたとしてあわわとしている感じもどこか変。そんなキャラクターたちに囲まれて、ステージの出演権をかけて争う漫画研究会との対決などは、展開も結末もアサッテの方向に突き抜けていって、読む人間を仰天させる。えっ! といったものだ。

 けれども、それが不思議と面白い。何かが始まることはなく、当然ながら成し遂げられることもないまま、ひとつの本格的な出会いを得て以下続刊? となっていることが、文字通りに「始まらない終末戦争と終わってる私らの青春活劇」だと言えそう。そうした中にも青春という奴はほの見える。学園プリンセスと名高い白井未來という少女の、雁弥たちが知る本性としての喋りも超愉快。そんな喋りを復活させながら、前とは違うよそよそしさも未来が示す理由とは? いろいろ気になる設定でありストーリー。この続きは果たして出るのか。待とうその日を。

 出なければその時こそ王雀孫のシナリオにエロゲーだ。だから何から始めたら良いんだろう?


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