ホテル ギガントキャッスルへようこそ

 高さ200メートルということは、アニメーションでいうならだいたい「トップをねらえ!」のガンバスターと同じくらいのサイズ。「伝説巨神イデオン」のイデオンならほぼ2倍、「ファイブスター物語」でも最大最強のモーターヘッド、ヤクト・ミラージュの5倍にも及ぶ高さの巨人が砦として屹立し、迫ってくるのだから並の軍隊ではかなわない。たとえ50万人もの軍勢で攻めたところで象に挑む蟻以前の存在として蹴散らされ、踏み潰されてしまうだろう。あるいは眼中にないというか。

 だったら眼中から消えてしまえば良いと考えたのが帝国を率いる皇帝で、皇国を守る巨人砦とは直接戦わず、大きく迂回する形で皇国の首都へと攻め込み討ち滅ぼして長い紛争を終わらせて10年ほど。使われないまま鹵獲された巨人塔はけれども破棄されるにはしのびないというか、とある事情があってそのまま残されホテルとして再利用されることになった。

 そんな設定を持って始まる物語がSOWによる「ホテル ギガントキャッスルへようこそ」(ダッシュエックス文庫、600円)。帝国と皇国との紛争の中で非正規の部隊による略奪が行われ、逆らった父親が処刑されそうになった時に現れた皇国の騎士に憧れ、自分も騎士になりたいと家を飛び出したコロナ・ローエンライズという名の少女は、農民の出ではなかなか難しいなかを頑張って騎士見習いにまでなったものの、平和になった世界に軍隊は不要といった皇帝の判断もあり、リストラされて住んでいた兵舎も追い出され、行く当てもなくお腹も空いて道ばたの雑草でも食べようかとしていたところに通りがかった男から、紹介状をもらって巨人塔へと出向く。

 千人の騎士がこもって戦った巨人塔ならまだ、騎士として自分を立たせる仕事もあると思ってようやくたどり着いた場所でコロナが見たのは、巨大なホテルとして大勢の宿泊客を集め賑わっているギガントキャッスルだった。そこで遭遇したちょっとしたアクシデントの最中、レイア・トゥルーマンという名のチーフコンシェルジュに紹介状を見られ、逆らう間もなく雇われ働かされる羽目になったコロナだったけれど、今までホテルの仕事とした経験はなく、サービス業とは何かも分かっていなくて失敗ばかりしてしまう。

 それでも騎士になると決めて学んだ騎士道の多くに込められた、誰かのためになるのだったら、自分を犠牲にしてでも正義を貫こうとする気持ちが、お客さまのためなら何でもやるといったホテルマンのモットーとも重なって、起こる困難をどうにかこうにか乗り越えていく。呪われていて突然暴れ出す鎧をまとった人物や、長い年月の中で人間嫌いになってしまったプライドの高い竜といった癖のある宿泊客を前に、困りながらもどうにか楽しんでもらおう、打ち解けてもらおうと粉骨砕身する。

 繰り出される難題をどう解決するのか、といった想定と結果の答え合わせを楽しめる展開。それでも失敗は止まらないけれど、そこにレイアという万能に近いチーフコンシェルジュが助け船を出して万事良い方向へと導いていく。いったい彼は何者だ。生まれつきのホテルマンという訳ではなさそうな彼の正体と、かつて聖なる騎士に助けられたというコロナの思い出が近付き折り重なって浮かび上がる、戦後という時代をどうにか生きていく者たちの姿がある。

 巨人砦の存在を疎み潰そうとする勢力の画策もあって大混乱を迎えるギガントキャッスル。それでも動じず暴れる鉄の兵士たちを相手にしっかり身を投げ出して宿泊客を守りホテルを守ろうとするコロナの姿に感慨。万能のレイアであっても、というより万能だからこそ気にしていなかったホテルマンの情熱といったものを、そこから思い出せただろうかが気になる。というか元々ホテルマンでもなかった彼が、そこに居場所を定めた理由も。

 それはホテルに暮らしているリディアという名の少女と関係がありそう。見た目は幼いけれどどこか老成していて、誰よりも強い権限を持っていそう。それに気づかないコロナもコロナだけれど、そういう真っ直ぐさがリディアにも気に入られたし、レイアにも認められたのだろう。誰かのために頑張る尊さ、大切さを教えてくれる物語。4人いるというホテルギガントキャッスル創設時の関係者たちが、レイアの他に何をしているのかも気になるところ。そういったキャラクターの展開と、想定を上回る宿泊客の問題に挑むホテルものとしての面白さを続きがあれば描いて欲しい。期して待とう


積ん読パラダイスへ戻る