英雄降臨
THE SEVEN HEROES&CINDERELLA

 古今東西の英雄を7人挙げろと言われたら、いったい誰を挙げたら良いのだろうか。日本から1人選ぶとしたら、郷土の英雄にして日本を代表する英雄、織田信長でキマリ。最近では混乱する政治を立て直そうと、復活して内閣総理大臣にもなっちゃうくらいだから、日本人の信長を慕う気持ちには、相当に高いものがある。

 あとはとりあえずアレキサンダー大王とジンギス・ハーンかな。片やギリシアの辺境にあるマケドニアから、こなた砂漠と草原がひろがる中央アジアから兵を起こして、当時の世界の半分以上を占領してしまったその手腕は、まさに英雄の名に値する。

 アレキサンダーに比べればシーザーなんてとは思うけど、それでも分裂しながら1000年以上の長きにわたって受け継がれるローマ帝国の始祖となった人だけに、敬意は払わなくてはいけない。ヨーロッパではあとナポレオン。シーザーにも増して卑小な小男だけど、国民の人気度も知名度も、日本の織田信長に匹敵するだろうから、日仏友好の面からも、信長を入れてナポレオンを入れない訳にはいかないね。ちなみに名古屋の久屋大通りはフランスのシャンゼリゼ通りと姉妹通り提携を結んでいるから、両者を比べるのもまんざら間違いではないらしい。

 困るのは中国、そしてアメリカ。秦の始皇帝に始まって項羽と劉邦、それから三国時代の劉備、曹操、孫権の三人、大唐帝国を興した李淵、元の支配から華人を解放した朱元璋等など、4000年の歴史に立ち現れる英雄は枚挙にいとまがない。アメリカだったらかのマウント・ラシュモアに彫られた偉大な大統領だけでワシントン、リンカーン、ジェファーソンら5人。これにアイゼンハワーだとかシュワルツコフといった軍人に、アームストロングのような宇宙飛行士、さらにはプレスリーのようなアーティストが加わって、もう収集がつかなくなる。

 しかしとりあえず、中国は曹操、アメリカはリンカーンとして、これに信長、アレキサンダー、ジンギス・ハーン、シーザー、ナポレオンの5人を加えた7人の英雄が、23世紀の未来を束ねる7人の男たちに降臨して、世界の統一に向けて覇権を競わせるという、思いっきりぶっとんだ設定のゲームが、12月6日に発売となったアルファ・オメガソフトの「英雄降臨」(9800円)だ。何しろこのゲーム、漫画家の佐々木潤子さんが、1年以上も漫画の仕事をおやすみして、分厚いシナリオと膨大なグラフィックを1人で手がけたという大作。ゲームの最初の段階で行う正確診断によって、降りて来る英雄が決まってしまう関係から、7人の英雄を主人公に他の英雄が絡んで来るシナリオ、つまりは7つの別々のストーリーが、佐々木潤子さんによって作られたのだという。

 集英社のスーパーファンタジー文庫から刊行された「英雄降臨」(520円)は、7つのストーリーのうちジンギス・ハーンが降臨して来るストーリーを小説化したもの。大異変のあと、地球に点在して残った大国の1つであるモンゴルを束ねる若き王、ドイジュ・ハーンは、曹操が束ねる中国とつばぜり合いをしながら、不安の中に暮らしていた。ある夜、不思議な夢を見たドイジュは、その言葉に従って中国を戦争で打ちまかし、曹操を仲間に引き入れる。

 以後、アレクサンダー、ナポレオン、シーザーを次々を仲間にしていく過程で明らかになったのは、彼らがみな、他国の侵略を言われもなく恐れていたこと。何かよからぬ力が働いていて、それが彼らを反目させて、地球を混乱の淵に陥れていたのだった。やがて信長、リンカーンとも理解しあったドイジュは、人が誕生する前から続いてる光と暗黒との戦いに巻き込まれていった。

 ジンギス・ハーンの部下にフビライやティムールがいたり、曹操の部下が劉備に項羽、参謀が司馬仲達に諸葛孔明だったりと、英雄がごった煮状態になったトンだ設定がなんともおかしいが、いきなり織田信長を総理大臣にしてしまった漫画がそうだったように、復活の理由とかはこの際省いて、復活後の英雄が、部下たち、参謀たちの歴史上記録された性格なり癖なりを、うまくつかってストーリーを進めていくようになっている点は、小説の原案としてクレジットされ、ゲームではほとんどのクリエイティブな部分を担当した佐々木潤子さんの、努力と勉強の甲斐が現れていると思う。

 著者の河西祐子さんという人は、どうやらこの小説版「英雄降臨」がデビュー作らしい。プロフィルに「主婦業を営むかたわら、アルファ・オメガソフトの契約社員として執筆活動を開始」とあるところを見ると、ゲームをメディアミックスしていく過程で、小説化の話が持ち上がり、文章の書けそうな河西さんに、白羽の矢が当たったと見える。文章はそれなりにこなれていて、シナリオを並べただけのジュニア・ノベルズが氾濫するなかにあって、とにかく小説として読める出来になっている。

 とまあ、当たり障りのないことを書いてはみたが、ぶっちゃけた話、佐々木潤子さんがアルファ・オメガソフトの社長さんのお姉さんであるように、河西さんも佐々木姉弟に”ごくごく”近しい間柄にある人とゆーこと。つまるところはこの「英雄降臨」、日本では珍しい(世界でも珍しい?)、1家総出のメディアミックス展開が図られている作品ということになる。

 むろんそれだが話題となるのは、1000枚のグラフィックを1人で手がけた佐々木潤子さんも、富士通を退社してまで当たるかどうか解らないゲームソフト作りに賭けた佐々木隆仁アルファ・オメガソフト社長も、1児を抱え近く2児になる身でありながら契約社員として本を書いた河西祐子さんも不本意だろうから、ここは是非とも1つ、ゲーム「英雄降臨」をプレイしてみなくては。まずはキャラクター選びから。質問に答えて答えて答えて、おお、アレキサンダー大王になった。なるほど2枚目で女性にモテモテのアレキサンダーは僕にピッタリ・・・かな。

 今日もまた1つ、大きな嘘をついてしまいました。


積ん読パラダイスへ戻る