戦闘破壊学園ダンゲロス

 あのころ、平井和正の「超革命的中学生集団」があった。宇宙人によって超人的な力を与えられた中学生たちが、最初はヒーローとなって活躍しながら、だんだんと我欲に引きずられていった果て。世界の命運をかけた決断を迫られるというシリアスな設定を持ちながらも、その語り口の軽妙さ、キャラクターの突出ぶりによって、読む人たちを驚かせ、唖然呆然とさせて楽しませた。

 虐めによる鬱屈だの、傷心だのといった、現代にありがちなネガティブなファクターはほとんどなし。あったとしても、それを怒りで突破していくような破天荒さにあふれていて、読んでいて心を熱くさせられた。もしも同様な作品が今書かれたとしたら、そこにいじめが絡んで復讐もどこか陰惨なものになって、読み手をネガティブのスパイラルへと陥れてしまうだろう。

 あらゆる艱難辛苦を真正面から受け止め、投げ返してぶち壊していくパワー。かつてあり、今は見られなくなったものが、架神恭介の「戦闘破壊学園ダンゲロス」(講談社、1700円)にはたっぷりと、それこそもう多すぎるくらいに詰まっている。溢れている。

 若い人たちの様々な願望が、異能の力となって発動し、それを元にいろいろな勢力が戦うってストーリー。それは、現代のファンタジックでサイエンティフィックな物語において、ある種の定番になっているといえるだろう。いわゆる中二病的と呼ばれる設定で、それそのものがてんこ盛りにされたストーリーを、物珍しさから読む時代はとうに過ぎている。

 しかし、「戦闘破壊学園ダンゲロス」における異能には、鬱屈だの傷心だのといった陰惨な感情が、暗闇に溜まるような暗さはない。暴力を振るわれたら、それを怒りに変えて異能を発動し、酷いことをした男子をすべて破壊し、殺害してしまうような力となって、世界に向かう破天荒さを見せる。何という痛快さ。その真っ直ぐで外向きな異能の力から、誰も目を背けるどころかむしろ得たい、得てすべてをひっくり返したいと思わされるだろう。

 物語は、両性院男女という、これはどちらかといえば現代の物語にありがちな、体を名で現したようなネーミングの主人公を中心に進んでいく。何者かによってさらわれた幼なじみの少女を助けるために、私立希望崎学園こと戦闘破壊学園に通う彼は、異能の力を振るって全生徒を管理しようと企む生徒会グループと、激しく対立している番長グループに与し、生徒会グループを突破して、その先にいる超常的な力を持った転校生グループに挑もうとする。

 番長グループを率いるのは、何代も受け継がれて異臭を放つようになった学ランを身にまとった巨漢の暴君こと邪賢王ヒロシマ。それこそ1970年代の漫画や小説に出てきたような豪傑で、見るからに恐ろしげな存在ながら、仲間思いで生徒会グループの暴虐に憤った彼は、両性院男女が持つ能力を使い、生徒会グループの攻撃をかわして、反乱を成就させようと画策する。

 その能力とは名を「チンパイ」といって、男女の性別をひっくり返すというもの。生徒会グループには、あkつて男性に襲われたことで覚醒した、男性だけを殺害する能力を持った少女がいた。その攻撃を避けるため、邪賢王は両性院男女の「チンパイ」を受け、小さく可憐な美少女になって、同様に美少女だったり、そうでもなかったりする女となった仲間を率いて、生徒会グループに戦いを挑む。

 もっとも、敵もさる者で、さまざまな異能の持ち主達が散らばって迎え撃ち、番長グループと拮抗する。異能対異能。計略対計略。激しさと迫力とに溢れ、時に敵をうち倒す喜びに溢れ、見方を失う哀しみに満ちたバトルの醍醐味を存分に味わいたい。

 もっとも、戦いは単純には進まない。生徒会グループと番長グループに絡む、さらに強力な異能を使う転校生グループの面々が現れ、両者の戦いを複雑なものにする。相手には「木曜スペシャル」という、読めばなるほど木曜スペシャルとしか言いようがない能力を使う者もいたりして、番長グループは苦戦を強いられ、生徒会グループも攪乱され、そして両性院男女にも危機が迫る。

 そんな戦いの向こうで待ち受けるのは、絶対の攻撃と絶対の防御の、どちらが果たして勝利するのか、といったパラドックスに対するひとつの答え。その果てに、人類の進化とも、人類以外への変化ともとれそうな未来への展望が描かれる。

 もっとも、たとえ超越できたとしても、重要なのは目の前の愛であり欲望だという展開が、人のこれは愚かさでもあり、そして強さでもある特質を示す。世界なんて関係ない。自分の求めるものを求めよ。そうささやきかける。そういうものだ、人間は。

 人がバタバタと倒れていく描写があり、それこそ睾丸を破裂させるようにして死んでいく描写もあって、傍目にはグロテスクとの言葉を浴びせられそうだが、読めばそうした異能の結果が、迫力のバトルの中に混じって、むしろ爽快な壮絶さとなって響いてくる。気にせず一気に読み進もう。

 とはいえ、脳みそを全部喰らえば、相手の能力を身につけられる能力の描写については、一口食べて吐きそうになり、けれども能力のためにすべて食べ切らねばならない少女の苦闘ぶりが、読んでいてさすがに嫌悪を招く。もしも同じ能力を授かったとして、あなたは脳みそを食べきる自信があるか。ソテーやペーストにして良いなら大丈夫か。考えさせられる。異能もなかなか大変だ。


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