クロニクル・レギオン 軍団襲来

 神話や伝承が現代に蘇った「カンピオーネ」シリーズの作家らしく、丈月城による新シリーズ「クロニクル・レギオン 軍団襲来」(奪取エックス文庫、640円)は、過去の歴史が現代に大きく絡んでくると展開に、歴史を学びつつ「もしも過去の英雄が現代に存在したら?」という架空のビジョンを楽しめる。

 神を殺してその力を受け継いだ人間たちによる戦いの中から、その力の背景にある神話のさらに奥にある伝承を推理し、探索して突き詰めることによって、相手の力の本質に迫って戦いに勝利していくという設定があった「カンピオーネ」。対してこの「クロニクル・レギオン」では、過去の英雄たちが現代へと顕現しては、その力をふるって、身の丈6、7メートルという有翼の巨人たちを呼び出し、レギオン(軍団)を作って戦いを始めるという設定がある。

 とはいえ、蘇った英雄たちのその出自、その経歴が土台にあって戦いに勝利し、あるいは敗北するといった直接的なぶつかり合いはまだ見えない。英雄たちはそれぞれの力を発揮して国を作り、近隣諸国を平定しながら世界地図を塗り替えている途上にある。例えばカエサル。かつてローマ帝国を興した希代の英雄が現代に蘇って行ったのは、東方ローマ帝国の版図を広げることだった。

 その勢力はアジア圏にも及んで、極東にある皇国日本もその支配下に入ることになった。かつては米軍の傘下にあったものの、カエサルが率いるレギオンによって米軍は排除され、東方ローマ帝国の属国扱いとなって皇女の下、国の形を成していた。といっても実質的に12ある州を治めているのは世襲の将家たち。その中にはカエサルの支配下にあることに不満を持つ者もいた。

 そんな皇国にあって皇女でありながらも、祖父にあたる竜の力が、色濃く出てしまったこともあって疎まれていた日陰者の藤宮志緒理という少女が、カエサルの元で学びつつ人質にとられていた生活を終え、皇国日本へと戻りまずしたのは駿河市へと赴くことだった。

 駿河市には皇室に仕える橘の家系に連なる橘征継という名の少年がいた。その正体は、志緒理の働きによって過去の英雄が顕現した存在らしいけれど、過去の記憶を失っていてその力をふるえず、それどころか何か力を持っていることすら分からなかった。

 そんな橘征継がいる駿河市に志緒理が着いたのと時期を合わせるかのように、ローマに反旗をひるがえそうとした京都の将家が、英国と結んで呼び寄せた女王騎士たちが東海道の各地にある鎮守府を制圧し、残るは駿河鎮守府だけとなって存亡の危機に陥る。レギオンを呼び出す力を持った騎士の女性が頑張っても壊滅はさせられず、最後の攻撃が行われたかと思ったその時。征継の力が発揮されて敵を退ける。

 その正体は未だ不明。土方歳三かもと思わせる展開もあったけれど、そうとも限らなさそうなところに謎がある。あるいは源氏か? といった想像をかきたてられる。そんな立場にありながら、征継自身は平然としていて、力があることを受け入れそれを振るって敵を退ける。

 一方では、通っていた学校で学園祭のミスコン実行委員に任命されたことを受け、候補者探しに黙々と取り組み、知り合った志緒理に出て欲しと頼んでは、相手が恥ずかしがるのも構わず水着写真を撮ったりしている。ただのムッツリスケベなのかもしれないけれど、そこは職務に忠実で真面目な性格ゆえ、といったことにしておこう。それともカエサル同様に英雄ゆえの色好みか?

 ともあれ敵はいったん退けることが出来たものの、相手には征継にも増して強靱な力を権限させた黒騎士卿がいて、彼との本気の戦いがあればただではすまなさそう。皇家に対して巡らされる謀略もあったりするその一方、志緒理自身も皇家から疎まれている立場にある中で、敵も味方もすべて従え天下を手にとれるのか? そこに征継の本性はどう絡むのか? 続きが気にかかる。紡がれる物語を待ちたい。


積ん読パラダイスへ戻る