ブレイクスルー・トライアル

 警備員に化けて潜入し、合い鍵を使って金庫を開いて名画や宝石を盗み出す。そんな大泥棒の話が成立したのも20世紀までのこと。21世紀となった今は、最先端のテクノロジーが使われたトラップが、お宝を守ってそこかしこに張り巡らされていて、天下の大泥棒であろうと決して寄せつけない。

 伊園旬の「ブレイクスルー・トライアル」(宝島社、1600円)は、そんな難攻不落のセキュリティシステムに挑む奴らの物語だ。舞台はとあるセキュリティ専門企業の研究所。己の技術に自信満々の企業が、同業者から絶対に破れないセキュリティなどないと挑発され、だったら侵入してみろと1億円の懸賞金を用意して挑戦者を募った。

 それならやってやると名乗りを上げたのが、当の企業で働いていた門脇雄介。大学時代の友人で、賞金を用意した企業のトップと因縁を持つ丹羽史朗とチームを組み、静脈認証やガードロボットといった研究所のセキュリティを調べ上げて、1億円の懸賞金と企業トップの秘密の奪取に挑む。

 ダイヤモンドの強盗団が紛れ込んで、予想外のアクシデントが起こり門脇と丹羽を脅かす。そんなスリルを乗り越え目的を達成した時の爽快感は、古典的な大怪盗の物語が醸し出すものと何ら変わらない。加えて21世紀の小説だらこそ得られるセキュリティに関する最新知識が、これさえ知っておけばどんな場所でも潜入可能なんじゃないかと思わせる。

 もっとも現実は小説なんて追い越しているから要注意。破られたら即座にバージョンアップされるセキュリティシステムに引っかかって御用となるから、常に勉強は怠るな。

 どこで知ったか不明ながらも盛り込まれた知識や情報から教えられること多大。そして楽しませられること請け負い。賞金1200万円の「このミス大賞」受賞に相応しい、21世紀型の冒険あり、潜入ありアクションあり謎解きありの大活劇を堪能せよ。


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