たたかう! ニュースキャスター2
B型暗殺教団事件

 「自分勝手で、みんなで決めたルールも約束も守らず、時間にルーズで無神経で他人の迷惑もかえりみず、自分さえよければいいと思っている。自分の失敗は棚に上げるくせに他人の失敗は厳しく責め立て、いつも自分がやっていることでも他人がやると平気で激しく非難する。自分が世界で一番正しくて偉いと勘違いしている」(74ページ)。

 夏見正隆が「たたかう! ニュースキャスター2 B型暗殺教団事件」(朝日ソノラマ、1000円)で指摘するように、血液型B型の人間の全部が本当にこんな性格なのかどうかは分からない。けれども現実に、こんな性格の人間は存在する。というより世界全体が、そして人間のほとんどが”B型”の気質になっている。

 国連が決めたルールを守らず、先進国も発展途上国も含めた世界の他の国々の不満もよそに突っ走しってはあっちでぶつかり、こっちで反発をくらっているにも関わらず、自分たちが世界で一番正しく偉いと思い込んでいる地球上で唯一の超大国などはひとつの好例。やったもの勝ち、勝ったものこそが正義だといった風潮は、国から会社のような組織から、一人ひとりの人の行動にまで広がって、世界が清く正しく平等になることを阻害している。

 官僚組織、といったものもそんな世界の安寧、人々の幸福に反する傲慢で独善的な存在として挙げられる。もちろん全ての官僚が、傲慢で独善的という訳ではないけれど、日本道路公団の問題のように、官僚が政治と結託しやがて政治を超えて権勢を広げようとした挙げ句、巨大な組織とプロジェクトを生みだし、それが激変する社会環境の中で身動きがとれなくなってしまっているにも関わらず、誤りを認め転じることを頑なに拒否している例もある。”B型”気質にならざるを得ない状況が、官僚組織にはあると言える。

 「たたかう! ニュースキャスター2 B型暗殺教団事件」(朝日ソノラマ、1000円)で今回、”たたかうニュースキャスター”こと桜庭よしみが挑むのがこの官僚組織。それも国土交通省という、日本道路公団の問題なり公共工事の問題で世間から強い非難を浴びながらも、政治の力と結託しては今なお高い権勢を保ち続けている官庁に、その圧倒的なパワーで吶喊していく。

 難関をくぐり抜け、在京キー局のアナウンサーに採用されたものの、ふとした事から宇宙人と出会い正義の味方になって欲しいと力を授けられてしまった桜庭よしみ。ニュースキャスターの職務として、事件が起こって報道するために駆け付けなくてはいけないその現場で、スーパーガールとなって活動しなくてはいけない立場になってしまう。

 つまりは現場をすっぽかさざるを得なくなる訳で、結果仕事をおろそかにしていると会社に非難され、哀れ局アナの立場を棒に振り、泣きじゃくりながらそれでも頑張ってお天気キャスターの仕事をようやく掴んで半年間、大きな事件もなく無難に乗り切っていたよしみにその日も回ってきた数分の晴れ舞台の直前。東京湾横断道路の中央にある「海ほたる」に、海からタンカーが突っ込んで炎上する大災害が発生したかたまらない。

 よしみに力を預けたイグニスから発せられる使命への声、耳に届く「海ほたる」で苦しむ人々の叫びに抗えず、着ていた服を吹き飛ば超音速で「海ほたる」へと駆け付けては、手足も露わな銀色のコスチュームに身を包んだスーパーガールとなって大奮闘。迫るタンカーをそのパワーで退け、1人の死者も出さずに災害を鎮めてしまった。

 もっとも誰も知らず知られるのも恥ずかしいスーパーガールの仕事のせいだと、決して言えないよしみの胸中を誰もおもんぱかることはなく、お天気キャスターの仕事をすっぽかしてしまったよしみは、哀れにも番組を降ろされてしまう。それでも彼女の意欲を買ってくれてるディレクターの好意で、無給の下働きながらも番組に携わり続けることになったよしみは、ディレクターの指示によって霞ヶ関にある国土交通省へと突撃取材に出向く。

 そこで出会ったのが、「海ほたる」の災害現場に1人残って死にたい死なせろと騒いでいた女性。聞けば国土交通省の女性キャリアで、実は上司の命令を受けてタンカー事故の裏で動いていた人らしく、そこから事態は建設官僚たちがめぐらしていた、独善としか良いようのない陰謀へと発展しては、よしみを巻き込み広がっていく。よしみは彼女を救えるのか。なおかつキャスターとしての復帰を果たせるのか。力はあっても境遇は悲惨さを究めるよしみの、それでも逃げない頑張りに、笑って涙して感動できる物語が今回もまた堪能できる。

 タイトルに入っている「B型暗殺教団」とは、電車で大声で携帯電話をかけ長い椅子を占領する傍若無人な証券マンや、雑踏を手にたばこを持って歩くサラリーマンを見つけては、討ち果たしていく正義感に溢れた青年たちの集団。もちろんその正義感も独善的ではあるし、使う手法にも問題があって、間違えれば「テロリズム」になってしまう可能性もあるけれど、世界に蔓延る”B型”気質を目の当たりにするにつけ、それらを抑止する力として、法的にも情動的にも納得できる形で存在して欲しい組織という気もして来る。「B型世界平定連合」。出来ないかなあ。


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