あずまんがリサイクル
【あずまきよひこ作品集】

 もともとが「あずまんが」と言えばあずまきよひこの手になるAIC=パイオニアLDC系アニメのパロディ漫画を総称するもんだと頭に刷り込まれて育って来た身なんで、今さら別に混乱も何もしないけれど、「電撃大王」連載の4コマ漫画から始まって、「スイングあずまんが」なるガシャポンに「webあずまんが」なるアニメにお下げが問えるちよちゃん縫いぐるみにガレージキット他多数、ないのは食玩ぐらいという日本でも有数のコンテンツとなりつつある「あずまんが大王」(メディアワークス)こそがファーストコンタクトだった人たちにとっては、これは一体何の漫画で何のパロディなのかすらもおぼつかないかもしれない、たぶん。

 その名も「あずまんがリサイクル」(メディアワークス、850円)は、表紙からして「Dr.リン」のような着物アレンジ系のコスチュームを身にまとった得体の知れない少女が描かれていて、すでに放映されなくなって久しい「天地無用!」系アニメにまったく慣れ親しんでいないまま、同じ”あずまんが”だからといって「あずまんが大王」のファンが見たところで、新キャラか或いはちよちゃんのコスプレ姿かと思ってしまったことだろう。

 目玉のハイライトがいささか少ない感じがあって、眼差しも若干ベタっとしている気がしないでもない表紙の麗しい美少女こそが、後続として世に出た「Dr.リン」でも「神風怪盗ジャンヌ」でもない和服系変身美少女の源泉「魔法少女プリティサミー」で、ベースは「天地無用! 魎皇鬼」に出てきた樹雷王家の砂沙美であって、今や「サクラ大戦」のメインキャラとして有名な声優・横山智佐さんの出世キャラだということを、知らないで読んだ人が果たしてどこまで楽しめるかは定かでない。

 めくったページでこちらは恐らく砂沙美とひしっと抱き合っている、ピンクのドレスに身を包んで頭にぴょんと兎の耳のように髪を立ててる少女こそが、名前こそ超有名なギャルゲーに近似ながらも正確その他はまるで違う、コスモビューティーこと神崎あかりと知らない人も以下同文。ほかにも魎呼一乃美星ターニャ阿重霞ンガジetc……。それらの名前にピクリとすら反応できない人に、「あずまんがリサイクル」がさてはでどれくらいの楽しみを届けられるのかは分からない。けれどもそれらの名前の形が目の縁を横切ったあけで激しく魂が動く人、高らかに心臓が鳴り響く人にとっては「あずまんがリサイクル」は存分以上に楽しめること請負だ。

 分からなければ見るしかない、「天地無用!」を、「魔法少女プリティサミー」を、「バトルアスリーテス大運動会」を。それもOVA版にテレビシリーズに劇場版を。ついでに聴け、50枚は軽くあるんじゃないかとすら思う関連のCDを、大変だがやるしかない、裏の裏まで存分以上に「あずまんがリサイクル」を楽しむためには。儲かってしょうがないね、パイオニアLDC。

 まあそこまで行かなくても、「天地無用」で言うなら子供キャラ(砂沙美)やおとぼけキャラ(美星)や悪役キャラ(魎呼)や高飛車キャラ(阿重霞)や天才キャラ(鷲羽)という前提を押さえておけば、彼女たちが織りなすシチュエーションコメディのおかしさをすくい取るなんてことは可能だし、「バトスアスリーテス大運動会」でも以下同文、ストーリーに関連したパロディはちょっと難しいかもしれないけれど、後の「あずまんが大王」にも通じるそこはかとなく染み出す笑いを汲み取ることは十分に出来る。4コマの「てんちむにょー」で姉と妹がじたばたして倒れて頭をぶつけあうエピソードは、ちよちゃん榊さんあたりに置き換えて読んでも通じそうだし。

 加えて親切にもストーリーとか状況に関する解説がそれぞれの漫画に添えられているから、繰り返し読み込んで状況を把握していけば、とりあえずの設定やストーリーの流れだけは理解できる、かもしれないから「あずまんが大王」でファンになった人たちは頑張るしかない。もっとも近く刊行される、「あずまんがリサイクル」の原型になったパイオニアLDCから刊行の「あずまんが」の続編にあたる「あずまんが2」は、パイオニアLDCから放映されて話題になったかならなかったかすら記憶に遠い「デュアル! パラレるんるん物語」のパロディ漫画もあるようで、ここまで来ると「あずまんが」ファンですら理解し辛いかもしれない。

 まあ、そうなれば「あずまんが大王」のファンと条件は同じ。「あずまんが」「あずまんが大王」「あずまんがリサイクル」を読み込んで培ったあずまきよひこ的なギャグとパロディの流法(モード)を頭に入れ血肉に溶かしつつ、その脈絡から「デュアル」でも「エルハザード」でもなんでも原点を遡及しながらパロディ漫画として理解し楽しむ努力に勤しむことにしよう。まあ「デュアル」自体が1990年代を通して現象にまでなった例のアニメのパロディみたいなアニメだから、きっと理解も楽だろう、たぶん。


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