冥玉のアルメイン1

 外に制圧と殺戮を繰り返し、内に抑圧と謀略をめぐらせた果てに国を建て、維持し発展させ、繁栄へと至らしめた統治者たちが、ただ正義感にあふれ、健全さに満ちた存在であるはずがない。民に見せるその顔は笑顔にあふれていても、臣下たちには厳格に接し同族たちには厳然に振る舞い時に虐滅の鉄槌をもふるって権力を護持し、強め高めてきた。

 そんな統治者たちが、代を重ねていくに連れていったいどれだけの策謀をくぐり抜け、どれほどの殺戮を繰り返したことか。そんな淘汰の果て。命を保った者が伝え、育んだ血に刻まれた権力への渇望、財産への欲望、そして生存への熱望は表に現れ、裏に潜んで血族の者たちを突き動かしている。自覚的に。あるいは本能的に。

 だからだろう。築地利彦の「冥玉のアルメイン1」(ファミ通文庫、600円)に描かれる王宮に連なる者たちの、それぞれがとてつもなく渇望と欲望と熱望に溢れているのは。そんな渦中に飛び込むことになった1人の少年は果たして、生き残り生き延びて権力の座をつかむことができるのか。とてつもない物語がここに幕を明けた。

 ルドニア三世という名の王と結婚した母に連れられ、王宮入りして王子になったアルメイン。血のつながらない長姉のヒルトルートにはいたわれれ、ナリアという正室の娘でアルメインより1歳下の妹からも慕われながら一方では、第二王妃の息子のガルクトからは私生児だと蔑まれもしてと、毀誉褒貶の中を日陰者のように王宮に暮らしていた。

 父王から問われ与えられた望む物は、母親ではなくカリーンという名のメイド1人で、彼女はアルメインに付き従って守り世話をしていた。そうして迎えた10歳の時に母が死んだ。ただでさえ日陰者として生きていたアルメインには、王子とは言っても父親との血のつながりはなく、王宮内の官僚にも貴族にも後ろ立てなどなく、これからの暮らしが危ぶまれた。

 そんなアルメインをなぜか、聡明でなおかつ美貌のヒルトルートが守ろうとする。親切からか。違った。彼女の真意に触れてアルメインは幼い身を厭わず王宮を飛び出し、放浪の旅へと出て、8年。戻った王都で、アルメインは少し前に死んだ父王の後を、代王として継いだ病弱の長兄の、早くに訪れた死を受けて王宮へと呼び戻される。

 そして幕を明けたのが謀略と係争の物語。代王の死でやはり代王となったヒルトルートも死の床にあって、後継としてアルメインとあと3人、商人と結婚した姉、軍を率いる姉、放蕩三昧の兄にアルメインの4人を代王候補として指名する。ガルクトやナリア、アルメインの母と夫の王との間に生まれたアルメインの妹メーニカら、4人以外の王子や王女たちには継承権を捨てさせ、代王となった4人には争うかそれとも協力するか、いずれにしても誰かが王位を継ぐために競い合えと伝えて程なく、ヒルトルートは息を引き取る。

 各地を放浪して社会の裏側も存分に見てきて、とある王国では王室に入り込んで陰謀にも加担したアルメインには、蛇の住処のような王室ももはや恐れる場所ではなくなっていた。とはいえ、悪に染まった訳でもなければ権力欲にまみれた訳でもない彼は、平穏を望み代王の座を事態しようとすらした。半ば追い込まれるようにして代王となったアルメインは、彼を慕い騎士として誓いを立てた実直なナリアと、なぜか8年前をまるで容姿の代わっていなかったカリーンを数少ない見方として、誰もが陰謀を抱え、欲望を滾らせ、己の信念のために邁進している王宮にあって生き残り、そして王として世界のために役立とうと進み始める。

 王子や王女たちに限らず、宰相や異国も絡みめぐらされる謀略も加わって複雑さを増す展開。誰が正義で誰が悪とかではなく、誰もがその思いのために動きぶつかり合う中で、最善と選び最強を目指して勝ち残るための表に裏に繰り広げられる戦いの様がスリリング。最後の最後で意外な所から浮かんだとてつもない企みも見えて、いったいこの先どうなるのかに興味が踊る。

 それ以上に浮かぶのは、王宮という場所で王族とう血を濃くして生きてきた者たちの凄まじさか。ヒルトルートの優しげに見えた姿の裏側に潜んでいたすさまじいばかりの感情と、それを否定され抱え続けたひとつの心理がアルメインを追い込んだとしたら、彼女の意志の強たるやどれほどのものか。軍隊を率いて戦いに邁進する別の姉も財政にはまるで疎く、なのにそれを厭わず戦いへと向かい続ける様には、どこか欠落したものが見える。

 ただ1人、アルメインを慕い彼の騎士だといって付き従うナリアも本当に純粋なのか。その皮の裏側に何かを潜ませているのではないか。ほかの王宮の女たちを見ていると、そんな可能性が浮かんで拭えない。彼女もまた王の血を引く女のだから。いったいこれからどうなるのか。アルメインは生き延びられるのか。続きが心から楽しみ。完結の後、その地平に立っているは果たして誰だ?


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