アイレスの死書1

 蓮見景夏の「アイレスの死書1」(オーバーラップ文庫、650円)で舞台となっているのは、真犯人が分からないまま未解決に終わった事件の記録が、書物「死書」となって存在し、他人に影響を与えて同じ事件を再現させる世界。大図書館という組織があって、そうした「死書」に取り憑かれた人々を探して殺して「死書」を回収していた。

 回収を担当するのは「史書記」と呼ばれる特殊な能力の持ち主達で、自らに「死書」を取り憑かせてその力を借り、犯罪の再現を行う者たちを狩っていた。同じ憑かれていても犯罪に走るか、力に変えるかは当人たちの心の強さか、あるいは別の何かか。例えば「史書記」のひとりのアリアスは、犯罪者の死体が大好きで指を切り取って持参したり、パートナーだった史書記が木っ端微塵の爆破されたその死体を、瓶に詰めて持ち歩いている。はっきり言って壊れている。

 主人公ともいえるレイン・ジークも犯罪者には容赦がなく、対峙すれば爆破し手足を切り落として命を奪うくらいは平気でやる。それでしか取り憑かれた者は倒せないにしても、呵責や躊躇もないその対応こそがある種の意思の強靱さであり、だからこそ「死書」の憎悪に引っ張り込まれない部分でもあり、そして史書記たちの壊れた部分であるとも言えるのだろう。

 そんな史書記にあって、なぜか他人を攻撃できず傷つけられもしないライカ・フロインハートという少女が本作のヒロインで、その身に帯びた呪詛のために疎まれながらも、「死書」を浄化する聖女としての力であり、とある「死書」に由来する異能が発動さえすれば容赦なく力を振るって相手を屠る史書記としての強い力といったものを繰り出して、己の勤めを果たそうとしている。

 そんな彼女とレインがペアとなって挑む討伐の物語になるかと思いきや、ほぼ同期の史書記たちがひとつ街に集められたところで、D・C・アドラーなる人物から送られてきたメッセージに従って7人いる史書記たちがひとり、またひとりと殺されていく事件が発生する。いったい誰が犯人なのか。メッセージを送れるということから、7人のうちにD・C・アドラーがいるに違いない。けれども誰か分からない中で、疑心が暗鬼を生んでレインがD・C・アドラーだと疑われ、残った史書記たちに追われる羽目となる。

 個々の異能をふるってのバトルという楽しさがある一方で、どんな異能を振るえば百戦錬磨の史書記たちを追い詰め殺害できるのか、といった謎があってミステリ的な推理の楽しみを味わえる。

 いくら異能が欲しくても、一人の史書記が身に帯びることができる「死書」は1冊が限度で、それ以上と欲張れば呪詛に冒され、身はひからびながらも死ねない体になってしまう。そんなリスクを抱えてまで、史書記として持つ死書に加えアドラーの死書を帯びて仲間を殺して回っている犯人の真意は? そこまでしてする理由? 想像力が刺激される。

 ティーンが読む軽くて明るい展開が多いライトノベルにあって、次々とむごたらしく史書記たちが惨殺されて、ヒロインの身にまで惨劇が襲うといった展開の派手さもあって、最後まで何が起こっていて、誰が犯人で、そして真相は何かといった興味を引かれる。その結果は? 生き残っているのは誰? 明らかになった犯人の暗い情熱と巧妙な手口に驚きつつも感嘆してしまう。そんな驚きの結末から先、いったいどんな“冒険”が繰り広げられていくのかにも興味が向かう。

 呪詛を祓って死を与える、あるいは生き延びるといったテーマも残して描かれるだろう続きを、どんな猟奇な犯罪者たちがその「死書」を誰に憑け、どんな犯罪を起こすかも含めて見定めたい。


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