綿花畑で働く奴隷の子として生まれ、運よく給仕の仕事にありついたことを経てホワイトハウスの執事となり、7人の大統領に仕えた実在の黒人執事をモデルにしたドラマとのこと。
過酷な綿花畑の仕事に子供の頃からつくという悲哀はあっても、少なくとも親子三人一緒に居られるという幸せはあった。しかし、白人雇用主に母親は乱暴されて廃人となり、その雇用主に声を掛けただけで父親は目の前で撃ち殺されるという悲劇。それでも当時、黒人を殺しても白人が罪に問われるということはなかったという。このままこの農園にいたら間違いなく殺されると、逃げ出して、運よくありついたのが給仕の仕事。そこから主人公=セシル・ゲインズの人生は開けていきます。
しかし、セシルを仕込んだ老給仕が与えた助言は、本音の表情と、白人の前での表情を使い分けること。
やがてホワイトハウスの執事に抜擢されたセシルは、7人の大統領に仕え、そしてそれらの大統領が人種差別問題にどう対していくのかをまざまざと目にしていくことになります。
一方家庭では、優秀で大学に進学した長男は黒人の権利を主張する運動に身を投じ、次男はベトナム戦争に志願する・・・。
外に向かって民主主義を声高く主張するアメリカが、1900年代もその国内においてこうも明らかな黒人を差別してきたとは、驚く程です。
そうした社会を背景に、じっと耐え忠実に働くことで黒人の地位向上を手にしようとしたセシル、直接的な行動が必要だと運動に身を投じた長男ルイス。対照的な2人の姿ですが、どちらが正しい、どちらが間違っているというようなことではなく、それらが相まって差別撤廃をもたらしていったと考えるべきでしょう。
ひとりの黒人の人生ドラマかと思っていましたが、本映画は紛れもなく近代アメリカ社会史を描いた作品と思います。
現代の視点からみれば近代国家の恥としかいいようのない人種差別ですが、今こうした映画を作り出すことができたのは、それだけ米国社会が改善した証拠、であることを祈りたい思いです。
地味ではありますが、本作品において主演のフォレスト・ウィテカー、その妻グロリアを演じるオブラ・ウィンフリーと、底の深い演技を見せつけてくれます。
また、2人の周囲を固める共演者の顔ぶれが豪華。
とくに7人の大統領を演じた俳優たち、当時のことを思い出しながら観ているとまさに観応えたっぷり。実際の大統領に似た人もいれば余り似ていない人もいて、それだけでも楽しめますが、中でもレーガン大統領はとくに特徴をとらえていて楽しい。ナンシー夫人も似ているなぁと思いますが、まさかジェーン・フォンダが演じているとは、観た時には全く気付きませんでした。
綿花農園の農園主であるヴァネッサ・レッドグレーヴも見逃せませんが、主人公セシルの母親役を歌姫マライア・キャリーが演じているのはちと驚きでした。
2014.02.16
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