“リチャード・ジュエル ★★★
Richard Jewell
(2019年アメリカ映画)

監督:クリント・イーストウッド
原作:マリー・ブレナー
脚本:ビリー・レイ

出演:
ポール・ウォルター・ハウザー、サム・ロックウェル、キャシー・ベイツ、ジョン・ハム、オリヴィア・ワイルド、ニナ・アリアンダ

  

1966年アトランタオリンピック期間中に起きた爆弾テロ事件の実話に基づく、クリント・イーストウッド監督の新たな傑作。

警備員リチャード・ジュエルは多くの人が集まる広場で、ベンチの下に置かれていた不審なバッグを見つけます。ジュエルが呼んだ警察官の調査により爆弾と判明、犠牲者が出はしたものの多くの人たちの命を救い、リチャードは一躍英雄として称賛されます。
しかし、捜査の主導権をとったFBIの担当捜査官トム・ショウは、自作自演の爆弾犯の人物像にジュエルがぴったり当てはまると、それだけで彼が犯人と決めつけます。
一方、実績を上げることしか頭にない女性記者キャシー・スクラッグスはトム・ショウに近づき、FBIがジュエルを犯人と睨んでいるとの情報を身体を使って手に入れ、衝撃的な新聞記事を載せます。その結果、リチャード・ジュエルは“英雄”から一転“犯人”と目されることとなり・・・・。

具体的な証拠が何もないにもかかわらずリチャードを犯人と決めつけた捜査機関の恐ろしさは、言葉に表せないほどです。
リチャードのプライバシーのことなど歯牙にもかけず、自分の功績ばかり気にするキャシーの報道姿勢が、それをさらに突っ走らせてしまった、というべきでしょう。

リチャードのどこに問題があったかと言えば、真面目でルールに忠実であったこと。ルールどおりに相手に警告するのが常であったことから何かとトラブルを招き、問題人物視されることが多かった、という次第。
しかし、リチャードは自分の権力を喜んで使っていたということではなく、相手のことをも考えてルールに従うよう警告していただけだというのに。
爆破事件の際も、ルールに忠実にしたがって人を遠ざけ、警官を呼び寄せ、懸命に避難を呼びかけただけなのです。それなのに・・・。

決して器用な人間ではない。生真面目で人付き合いもそう良い訳ではない。おまけに小太りで未婚、恋人もおらず、年老いた母親と2人暮らし。
それがFBIやメディアをして、リチャードをどう扱ってもよい人間であると、思わせたのでしょうか。

リチャードの味方になるのは、かつてリチャードが官庁で備品係をしていた時に知り合った、現在は独立した弁護士のワトソン・ブライアント。

作品の題名は主人公の名前である「リチャード・ジュエル」という素っ気ないもの。また、地味なストーリィであるうえに、人気俳優の出演は皆無という興味を惹きつけないもの。
しかし、間違いなく本作は、強大な権力の恐ろしさと、その標的にされた個人の過酷な運命を地道に描いた傑作です。是非、お薦め。

2020.01.18

       


  

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