“白鯨”と言えばまず思い浮かぶのは、サマセット・モームが“世界の十大小説”のひとつに数えたハーマン・メルヴィルの名作「白鯨」のこと。
しかし、本映画はその小説「白鯨」ではなく、その元ネタになったという19世紀の歴史的事実、米捕鯨船エセックス号の悲劇の映画化とのこと。
高校時代に「白鯨」を読んだものの、読みこなせなかったという思いが残っているだけに、“白鯨”と聞いただけで観ずにはいられない気分でした。
ストーリィは、作家として売り出したばかりのハーマン・メルヴィルがエセックス号で当時少年水夫、今や年老いて最後の生き残りとなったトム・ニカーソンを訪ね、秘められていたその真相を聞き出そうとする、というところから始まります。
今や国際的に動物虐待の象徴と受け止められている捕鯨ですが、当時はランプ用として鯨油は需要大。米国から多くの捕鯨船が太平洋に乗り出し、鯨を殺しては油を取っただけであとは放り出し。米国が日本に開国を要求したのもそもそもは捕鯨船の補給基地が必要だったという事情。
そんな当時の捕鯨状況を知ることができるという点でも本作品は貴重、と感じます。
そして、エセックス号の乗組員たちを襲い、その果てにエセック号を沈没させた白鯨との闘いはリアルでよく映像化されていると思いますが、小説「白鯨」のようなドラマチックなものではありません。
むしろ本映画の主ストーリィは、3隻のボートで漂流することになった生き残り乗組員たちの迫りくる死との闘い、生き残るための悲劇にあります。
それがどのような悲劇であったのかは、もう映画を観てもらう他ないでしょう。
彼らの運命は、物事の是非を超えた処にあった、と感じるのみ。
2016.01.16
|